【黒死牟】この恋は心が保たない。弐

新＊弐 ページ23

＊



A。


呼んだって聞こえやしないのは分かっている。


でも声が聞きたい。



＊



本当は会うつもりなんてなかった。



お前の苦しむ姿に、耐えられなかった。

あの日、新月の夜のようにシンとした瞳を向けられた時、私の心はかき乱された。


私だって愛している。どうしようもないくらいに。



だからあの夜、お前を気絶させて行き場の無い感情を吐き出すように、お前の体に苦し紛れの花を植えた。

できればお前の体を傷つけたくは無かったが、私の手元を離れると考えたら、どうしようもない感情に襲われてしまったのだ。
本当にすまない。


会いに行って、どうするも無い。


体が動いてしまった。


だが許してくれ、お前が忘れたあの日々を、私だけが覚えているあの日々を、嘘にはしたく無い。



＊



そして彼は浅草に行き着いた。

そこには、楽しげに笑って接客をするAがいた。

名を呼べば、何ですか黒死牟さんと言ってくれそうな程、忘れてしまっているなんて思えない様子のA。

でもその笑顔は黒死牟の知らない顔。


｢……｣



＊

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