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其々の過ごし方 ページ41

最初に訪れたのは服屋。

なぜ、と問うと、制服のまんまじゃイヤだろう、と与謝野は軽く笑った。

真逆自分のために買ってもらえるとは思っていなかったので、焦った。

「お金持ってませんよ」

「今日は妾が払うよ。どうせアンタ、まともな私服持ってないンだろう?」

私は言葉を詰まらせた。

全くもってそのとおりだ。

「それじゃ、選びな」

普段なかなかお目にかかれないハイカラな服を目の前にして眩暈がしたが、段々楽しくなって来た。

「これにします!」

試着室から出た私を見て、与謝野は「ほぅ」と云った。

「なかなか似合ってるじゃあないか」

「へへっ、ありがとうございます」

私は嬉しくなり、その場でくるっと回った。

若草色のスカァトの裾がふわりと舞う。

胸元で私のブローチがきらりと光った。

遠い日に、母と服屋に行ったことを思い出す。

母は、私が当時大好きだった桃色ではなく、地味な藍色のものを選んだため、駄々をこねた。

思えば、私はいつも母に迷惑を掛けていた。

一人暮らしするなんて、考えてもいなかっただろうな。

「それじゃあ行こうか」

私たちはそのまま店を出た。







駅に着き、俺は肺が空になるほど大きなため息をついた。

鏡を見れば、きっとくっきりと眉間に皺が寄っていることだろう。

俺の全てが完璧に書き込まれた手帳を取り出す。

今日の予定は飛ばし、所謂マル秘の頁を開いた。

題名は、『名前』だ。

この頁は誰にも、勿論太宰にも見せていない。

理由は簡単、恥ずかしいからだ。

思えば、Aは俺の人生において異質な人物だ。

仕事柄、恨みを買うことは多いが、慕ってくるのは初めてだった。

特別美人でも、何かに秀でている訳でもない。

ただ、俺のために、ときに激情に駆られる彼女に、俺は惹かれた。

そしてAは俺のファースト・キスの相手でもある。

唇に触れた感覚を思い出し、俺は暫く頭を抱えた。

周りの人の視線が痛いが、今はかまっていられない。

付き合ってもいない女性とそのような行為・・・俺の理想手帳には書いていない!

しかし、その場の雰囲気に流されてしまったのも事実だ。

自分の貞操概念の緩さに腹が立つと同時に、よくやったぞと云いたくなる。

Aと出会ってから、全てが狂ってしまった。

これ以上近づくとどうにかなりそうなので、今は自然に距離をとっている。

そんなことを考えている内に、電車が通り過ぎる。

あれ、俺が乗る予定の・・・。

黒帽子の男→←変則的な朝



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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 国木田独歩   
作品ジャンル:アニメ
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グーフィー(プロフ) - 紅羽さん» ありがとうございます。結婚かぁ…(遠い目 (2018年9月8日 23時) (レス) id: c591818929 (このIDを非表示/違反報告)
紅羽(プロフ) - 早く結婚しろやァァァァ!国木田さん尊い… (2018年9月8日 21時) (レス) id: 5947bb1147 (このIDを非表示/違反報告)
グーフィー(プロフ) - きのこまるさん» 乱歩さん回でした。 (2018年9月8日 21時) (レス) id: c591818929 (このIDを非表示/違反報告)
きのこまる(プロフ) - あっはぁ・・・!!乱歩さんが!活躍して!嬉しいです! (2018年9月8日 21時) (レス) id: c031244509 (このIDを非表示/違反報告)
グーフィー(プロフ) - 紅羽さん» シュンとする社長に肩ポンする春野さん…ってところまで想像してもらえれば。 (2018年7月30日 6時) (レス) id: c591818929 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:グーフィー | 作成日時:2018年6月18日 16時

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