Ｓ Ｅ Ｖ Ｅ Ｎ # ３

沢北を取り囲む会 ページ41

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旅館に戻ればすぐに大広間に集合した山王軍団が湘北高校の試合が録画されたビデオを熱心に見つめながら、湘北のスタメンである５人の弱点や得意なシュートエリアなどの意見を各々に出し合っていた。


そして、直ぐにまた体育館へと移動すると今度は監督の招集した大学オールスター級とも呼べる元山王工業ＯＢ達を仮想湘北として練習試合を行うのだった。



『栄治、お疲れさま。はい、タオル』


「おう、サンキュ…」


『仮想湘北と実際に試合してみてどうだった？』


「んー、何かビデオで見た感じとはちょっと違う気がするんだよな…」


『まぁ、確かに違う所もあるけど』
(こればっかりはどうにも出来ない事だしなぁ…)



歴代のＯＢ相手に４６−２４と結果は圧勝に終わったものの、やはりあくまでも仮想は仮想にすぎないのか深津を筆頭に河田や沢北も未だ首を傾げるばかりで、まだ何処か引っかかる部分がある、そんな表情を浮かべていた。


そこで深津がもう一度湘北のビデオを見たいと監督に頼み込んだ為、再び駆け足で旅館に戻ってきた山王軍団は予選からかき集めてきた試合の映像を改めて食い入るように眺めながら湘北独自のプレースタイルを頭に叩き込むのだった。


その一方で、マネージャーの仕事を終えたナナは一足早く自分の宿泊する部屋に戻るなり、休む暇もなくジャージのポケットにしまっていたリョータのリストバンドを二つ取り出した。


そして、それを裏返しに机の上に乗せた後、今度はカバンから針と白い糸を取り出すとそれも机の上に並べていき…



『…っ、よし』
(裁縫は得意分野だし、頑張ろう)



チームジャージの袖を肘まで捲り上げると、張り切って針に糸を通したナナはそこから黙々と手を動かしながらリストバンドの内側に秘密の応援を施すべく夜遅くまで作業に没頭していくのだった。







そして静寂に包まれながらゆっくりと夜が明け、いよいよ山王工業ＶＳ湘北の決戦の日を迎えるとナナは、リョータから借りた赤と黒のリストバンドをポケットにしまって、心弾ませながら試合会場へ向かった。


バスを降りるなり即座に山王軍団が控え室に向かうなか、ナナも相変わらず沢北と肩を並べて歩いていく。


昨日バスの中で、ナナが沢北からの告白を断った時は多少なりともギクシャクするかと思われていた二人だが、



『今日の第一試合は海南と馬宮西だね。ねぇ、栄治はどっちが勝つと思う？』


「まぁ、普通に考えて海南が勝つだろうな。海南の奴等は去年もインターハイベスト４まで残ってたし…｣


『んー、じゃあ、やっぱり海南が妥当ってことか』



昨日の練習試合から今に至るまで、周りが不気味に思うほど淡々といつも通りの会話を交わしながら控え室までの道のりを歩く二人の姿に、



「なんだァ？沢北の奴、昨日こっぴどく和泉に振られた割には思ったより普通じゃねーか…」


「ひとまず今日の試合には影響無さそうで良かったピョン」



河田と深津が目の前の二人を遠巻きに眺めながら、ナナに振られて何処かふっ切れた様子の沢北にホッとしたのも束の間＿＿


昨日バスの中でナナが沢北を振った瞬間、沢北の周りを取り囲んで聞き耳を立てていたレギュラー陣は一気に静まり返って、さながらお通夜会場と化してしまったのだが…



「けど、今思い出しても昨日のバスの中恐ろしい空気だったよな…」



ふと、その事を思い出した河田が苦虫を潰したような顔で深津を見ると、昨日間近にその光景を見ていた深津はもはやトラウマレベルとなってその目に焼き付いてしまったらしく…



「あれは、もう二度と思い出したくないピョン…」



頭と体をブルブルと揺らして、静かに目を瞑った深津は静かにそう呟いたのだった。


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