Ｓ Ｅ Ｖ Ｅ Ｎ # ３

優劣 ページ2

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試合を間近に控えた選手達がこの控え室のドアの向こうには当たり前に沢山居る。更にいつ何時、誰がこの場を通るかも分からない。


そんな状況にも関わらず、一体この沢北は何を言い始めたのかと戸惑いの声を上げたナナに対し、



「正直、俺はお前さえ傍に居てくれたら他に何も要らねーよ…」



" どんな厳しい試合でも何時もベンチにナナが居たから
俺は絶対勝ちに行ってやるって気持ちになれたんだよ。
実際、この２年ずっと勝ち続けてるしな。


つまり、俺ん中でお前の存在はそれぐらい大きくて
何よりも特別なんだよ…


けど、お前にとっての俺はそうじゃないよな＿＿ "



『…そんな事な』


「あるだろ」



抱き締める手を緩めるどころか更にぎゅっ、ときつくした沢北がナナの言葉に被せるようにしてそうはっきりと言い切ってみせた。そうして、



「分かるんだよ、俺には…」


『…栄治』



別に自分が宮城に負け劣ってるとは全く思ってねぇけど…と、こっそり頭の中で悪態を吐きながらも沢北は、ようやく腕の力を緩めるとこう言った。



「なぁ、幼なじみだか何だか知らねーけど、宮城にあって俺に無いものがあるなら教えてくれ…」



そうして、ナナの両肩を掴むと藁にもすがる思いでナナを真っ直ぐに見つめるのだった。


一方で沢北にぐっと掴まれた両肩をチラリと横目で一瞥したナナは呆れ気味にはぁ、と大きな溜め息を漏らすと今度は沢北目掛けて真っ直ぐに視線を向けた。


そうして、



『それ、比べる事じゃないと思う』



沢北の目の前できっぱりとそう吐き捨てるのだった。幼い頃からナナは、他の誰かと比べて何処が劣るだの、勝るだのと何かと優劣を付けたがる大人達が大嫌いだった。


それは勿論、幼なじみのリョータが大人達から散々なまでに好き勝手言われ続けてきた事だったからだ。



「兄貴は強かったのに弟は全然大したことねぇやん…」


「こりゃ駄目だな、やっぱり兄貴の代わりにはならないさ」



ああ、駄目だ。
今思い出してもムカついてくる。



なんて、過去の記憶が脳内を過ぎると僅かに表情を歪めたナナは密かに独り言ちた。


苛立つ気持ちを抑えようと、目を閉じたナナは静かに呼吸を整えると再び瞼を開けて目の前の沢北を見据えた。



『もう、リョーちゃんはリョーちゃん、栄治は栄治でしょ！』



勢い良く沢北の胸をベシッ、と叩き、何言ってんの！とばかりに沢北を叱責してみせれば、思ったよりナナの叩いたその手には威力が込められていたらしく…



「うぉ、痛って…！」



突然与えられた痛みに敏感に反応した沢北が目を丸くしてびっくりした顔をすると、すかさずムッとして不満たっぷりにナナを見据えた。


ナナに叩かれた場所をそっと手で撫でながら沢北が一言ナナに文句を言ってやろうとしたのだが残念ながらそれは叶わなかった。何故なら、



『栄治には栄治にしかない魅力がちゃんとあるんだから、変に卑屈になったりしないでそのままで居て』


「……っ！」


『私が知ってる栄治の長所を自分で消そうとしないで！』



" 私だって栄治がずっと傍に居てくれたから
これまで山王でマネージャー続けて来れたんだよ…


だから、自分は特別じゃないとか絶対言わないで！
次また言ったら許さないから＿＿ "



少しその目に涙を浮かべながらも、はっきりと沢北の前でナナがそう言い切ったからだ。揺るぎなく沢北を見つめながらそう言い放ったナナの目には何一つとして嘘も迷いも無かった。



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