T R I G G E R .. #2

Eau douce 5 ページ21

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『あっ、北ちゃん、ナナいらっしゃい！』


「陸さん、遅くなってごめん｣


「じゃあ俺、着替えてくるからナナはここに座ってて｣


『あ、うん、分かった』



陸さんは二人の姿を見ても動じる事無く
何時も通りにこやかに笑みを振りまいて
暖かく二人の事を迎え入れた。


そうして、北人さんは
ナナをカウンターの隅っこの席に座らせ、
自分はそそくさと２階へ着替えに上がった。



『ナナ、何か飲むでしょ？』


『陸さん、サービスするよ？』


「え、本当に？じゃあ、ミルクティー！｣


『んー、良いけどさ、またミルクティーなの？』


「だって、ここの美味しいんだもん｣


『ははっ、分かった分かった！｣


『じゃあ、ちょっと待ってて』



こうしてカウンターを挟んで行われる
その会話だけ聞いていると二人は
別れる前と何も変わらないように見える。


ただ、違うのは陸さんが
カウンターからは出てこないで
ナナと一定の距離を保っている事だ。


きっと、そうする事で
陸さんの決めた境界線を越えないように
無意識に警告が鳴っているのかもしれない。



『あー、緊張したぁ…』



陸さんがカウンターから
バックヤードに引っ込んだ瞬間、
緊張から解放されたのか
ナナはずるずると力無く
カウンターに突っ伏した。



「だったら、無理して来なきゃ良いだろ｣


「ナナって本当、馬鹿だな｣



そのほんの少しの隙を狙って
ナナの座る席にゆっくりと歩を進めると
それとなく隣に肩を並べて立って
俺がわざとらしく嫌味を言ってみせると…



『そういう訳にもいかないでしょ…』


『たまにはお店に顔出すからって』


『陸さんと約束しちゃったんだもん…』



突然むくっと上体を起こすと、
ゆっくりと俺の腕に寄りかかるような形で
また盛大な溜め息を溢したナナは
無意識なのか、
カウンターに頬杖を突きながら体を傾け
こっちに倒れてくる…



「……っ、｣
(こんなの不意討ちだ)



寄りかかったナナの髪が
微かに俺の腕を掠める。


別に、今までに
こんなシチュエーションが無かった訳でもないのに
一気に頭が真っ白になり、
今までどんな風にナナへ
切り返していたのかすら思い出せなくて…



『ああ、そうだ、あのね樹君！』


「は、なに…｣


『さっき北人さんから聞いたんだけど』


『明日から新しいバイトに女の子が来るんでしょ？』


『ねぇ、どんな子？可愛いかった？』






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