T R I G G E R .. #2

Eau douce 4 ページ20

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「お待たせしました、｣


「ミルクティーになります…｣



半ば意識も無いままに
6番テーブルの新しい主になった女の子の前に
ミルクティーを置く。


面倒にはなりたくないから、と
そそくさと会計の伝票を
テーブルに添えようとしたところを…



『ねぇ、待って、樹君！』



ぱしっ、と素早く伸びてきた彼女の手は
俺の腕をきゅっと掴んだ。


何時の間に知ったのか疑問に思いながらも
自分の名前を呼ばれたので仕方なく
顔を向け、視線を合わせれば
彼女はにっこりと笑って首を傾げた。



『"藤原樹"君、だよね？』


「そうだけど、何？」


「何で俺の名前知ってるの、誰？｣



こうして話している間も俺の意識はここでは無く、
あのドアの向こうにいる北人さんと
その隣に並ぶナナの方に向いている。


つい、ムシャクシャして
突き放すような冷たい言い方になるのも、
あの二人が気になっているのに
邪魔をされているからだ。



『私、隣のクラスなの！』


「ああ、同じ学校の…｣


「で、その隣のクラスの女子が｣


「何でわざわざこんな隣町のカフェに通ってんの？｣



彼女からすれば俺を知っていて
たまたま話しかけたのかもしれないけれど、
俺から見れば、彼女は
たった今名前を知った存在で
言うなれば初対面に近い人間だ。


こんな風に突然馴れ馴れしく腕を掴まれた事に
少し鬱陶しく感じつい邪険に扱ってしまう。



『少し前にここのカフェに来たら』


『すごく雰囲気が良くて、気に入っちゃって』


『それでね、私も、明日からバイトするの！』


『だから、その挨拶も兼ねて』


「……え？｣
(陸さん、聞いてないですよ…)



彼女からの突然の挨拶に驚き、
まさか、と思ってすかさず後ろを振り返って
陸さんにじっ、と視線を送った。


すると、陸さんは苦笑いを浮かべながら
まるで、ギギギ…と音がしそうなくらい
下手くそな素振りで首を捻って
俺から隠れるように顔を背けた。



「…………。｣
(知ってたくせに黙ってたんだ、ウザいな)



陸さんの態度から全てを察して
思わず脱力する。
肩から力が抜けると同時に溢れた溜め息。


すると、見計らったようにタイミング良く
カフェの扉が開く音がして…



『陸さん、久しぶり…』


「……っ、｣
(やっぱ俺、違和感だらけだ)



あの日、自分の中に芽生えた
小さな感情を受け入れた時から
胸がちくんちくんと音を軋ませて痛む感覚から
ずっと抜け出せない。


ナナがカウンターに居る陸さんを見つけて
真っ先に笑いかけるだけで
心の中の靄は醜く、どんよりと重くなる…





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