T R I G G E R .. #2

Eau douce 3 ページ19

.





『いや、だってさぁ、俺あの子から…』


『樹が良いって頼まれてるんだって…』


「……は？」


「いや、何ですか、それ？｣


『とにかくさ、そういう事だから』


『頼むよ、いっちゃーん！』


『それにさ、ほら、最近少し売り上げ落ちてるし？』


『常連客は大事にしなきゃ、ねっ？』


「陸さん、そういう手口ウザいっすよ｣



あれよあれよ、という間に
陸さんのわざとらしい言い訳を聞かされると
ミルクティーをトレーに乗せられ
背中を押されてしまった。



「ああ、そうだ、陸さん｣


『んー、何なに？』


「前から言いたかった事なんですけど…｣


「最近、女の趣味変わりましたよね｣



このまま素直に従って運ぶのは
どうしても自分のプライドが許さなくて、
ついつい悪戯に陸さんの傷口に
塩を塗り付けるような台詞を言ってしまう。


確かに、陸さんは北人さんに
彼女を奪われた被害者かもしれない。


だけど仮にも一度、
彼女の目に恋人として存在していた陸さんは
俺からすれば嫉妬の対象には充分で…



「陸さんて、あんな人がタイプでしたっけ？｣


「少し趣味悪くなったんじゃないっすか…｣


『うるさいな、俺の事は良いから早く運べよ！』


「あっそ、はいはい、分かりましたよ…｣
(ほんの仕返しのつもりだったのに)



少しの出来心で口にした意地悪な言葉に
あからさまに顔色を変えた陸さんは
ひどく激昂し、カウンターを叩いた。


ナナと別れてから、
陸さんが今の彼女、いや、正確には
彼女の位置に最も近い深い関係のお友達？
と、言った方が良いのか…



とにかく、そういう類いの
軽い付き合い方をしている事
俺が知らないとでも思ってます？



ずっと傍観者だった分
色んな感情を間近に見てきた


そして、時にそれは
当事者よりもずっと
鮮明に刻まれる事もある



「……あ、｣
(あそこに居るのって)



例えばそれが、
見たく無い景色でも＿＿



ちょうど、この時間になると
昼から夜のバイトのシフト交替が行われる。
ガラスの扉越し見えたのは
北人さんと手を繋ぐナナの姿だった。


恐らく二人は、今日も仲良く
図書館で勉強でもしていたんだと思う。


仲睦まじい二人の姿を見ていると
何陸さんとまだ付き合っていた頃の
ナナの姿もダブらせて
余計に胸を燻っている靄が
より深く、濃くなるような気になる。







.

Eau douce 4→←Eau douce 2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す