T R I G G E R .. #2

Third party. 4 ページ15

.






『樹、今日はやけに突っかかってくるけどさぁ…』


『これ以上、俺の事怒らせないでくんない…？』


『お前は今までみたいに黙って見てれば良いんだよ』



何時だったか、北人さんは俺にそう言った。
もしも、これが、北人さんの描いたシナリオで
俺がこうなる事を予め予測していて
張り巡らせた罠だったとしたら…



やっぱり北人さんは相当に手強い確信犯で
その周到さに脅威すら感じた。


全く勝てる気なんかしないし
負けるのが分かっている勝負でしかない


なのに、いつの間にやら
勝敗なんか気にしていられない土俵際まで
俺は北人さんに迫られているような
そんな気がした。



「とりあえず、俺と本当に友達になりたいなら｣


「まずはその癖、直せば？｣


「話はそれからじゃない？｣


「次、俺と会う時は｣


「"樹"って呼ばなきゃ許さないんで｣


「それじゃ、俺バイトなんでそろそろ行きます｣



冷たくあしらって
彼女に軽く圧力をかけた俺は鞄を肩にかけて
颯爽と席を立った。


何時もならここで
ナナに押し付ける会計伝票を
さりげなく抜き取って片手に持つと
カプチーノの入ったカップ片手に
ぴたりと固まってしまった彼女の間抜けな表情に…


ぐっ、と一際距離を詰めて、
唇が触れてしまいそうなほど顔を寄せた。



「そうやって友達だと思って油断してると｣


「痛い目見ますよ｣


「俺だって北人さんと同じ、男(・)だから…｣


『……え゛っ！？』


「あっ、そこ、泡付いてる…」



うっすらと彼女の唇に残ったカプチーノの泡を
そっと優しく親指の先で拭い取る。


そうして、そのままその指を舐めて
ふっと息を吐き口角を上げながら
わざとらしく、にやりと笑ってみせると…



『ちょっ、何して…』



彼女はたちまち顔を真っ赤に染め、
恥じらいからか両手で頬を覆った。


その姿を見て、
俺はこれまでずっと否定し続け
靄の中に隠していた蓋が開いたような
そんな感覚に陥った。



そして、
それは次第に確信に変わっていく＿＿



ああ、なんだ。
俺はナナの事が好きだったんだ、と。







.

Third party. 5→←Third party. 3

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す