「師走のいたずら」 ページ5
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冬の東京は痛々しいほど煌びやかやと思う。
大通りの両側の並木にはイルミネーションが施されて、ハイブランドの店のショーウィンドウはクリスマス仕様でより一層華やかになる。
うちの会社はそういう、サラリーマン以外の人の往来が多い場所に位置しとるから、少し外に出るだけで嫌でもクリスマスや年末に向けて浮かれる街を感じられた。
別にクリスマスに独り身な自分を可哀想な奴やと思うわけでもないし、浮かれてる街や人を妬んだり軽蔑したりするわけでもないけど、
それでも冬の東京は少し、痛々しい。そう思う。
12月に入るとすぐ、お母ちゃんから電話がかかってきた。
この時期にかかってくるお母ちゃんからの電話の要件は決まってる。年末はいつからいつまで大阪に帰ってこれるんかって話。
正月は毎年29日から三が日まで大阪に帰ってるんやからいちいち電話をかけてこおへんでも分かるやろ、と思うけど、
お母ちゃんからの電話に毎年俺はもう12月なんや、と実感させられる。
――新幹線、早いとこ取っときなさいよ。
――もう取ったて。上京して何年やと思うてるん。
――お母ちゃん東京の美味しいワイン飲みたいんやけど。
――…分かった。買うてくから。
電話越しにそんないつも通りのやりとりをした。
ヤスは春になったら沖縄で挙式を挙げるらしい。あったかくなってから、海の近くで、ってところがヤスらしいなと思う。
有難いことに結婚式には招待してくれたから、俺は春に人生で初めて沖縄に行くことになる。
俺の失恋の傷は、というと。
まずまずやと思う。
相変わらずジムには通ってて――おかげで腹のワンパックがうっすら割れて、腕にも筋肉がついて風呂で自分の体を見るのが少し楽しみになった――自炊の方も友達を家に呼んで振舞ったり鍋囲んだりして継続してる。
そのおかげなのか、単に時間が経ったからなのか、それとも繁忙期で彼女と顔を合わせるのが減ったからなのか分からへんけど、
以前のようにフラれたという事実に必要以上に感情を揺さぶられることはなくなっていた。
こうやって、『元どおり』に戻っていくんやって。
そう思うと、ほっとするような寂しいような悔しいような変な気持ちになる。
いずれにしても、一度好きになった人への愛おしい感情が薄れるのも、無理やり消さなければいけないのもどちらも虚しい気がした。
俺の気持ちはもう、ちゃんと彼女から離れていってると俺はそう思っていた。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、とっても素敵な感想いただいてしまい、胸がいっぱいです…。おこがましいですが、読んでくださる方がすこしでも何か思ってくださるとすごくうれしい気持ちになります。こちらこそ、読んでくださり、もったいないほどの温かいコメントをありがとうございます…！ (2019年10月31日 16時) (
レス) id: e4c7cf5b6b (このIDを非表示/違反報告)
幸 - とても、引き込まれるお話でした。見ることができて、よかった。vocabularyも豊富で、表現が繊細で、読者を震わせることができる人だと思います。これから、全て作品見ます。ずっと、応援してます。ありがとう。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2018年9月12日 23時
