「さよならリグレット」 ページ34
。
朝まで俺も彼女も眠らへんかった。
もう二度とくることはないこの時間を眠って終わりにすることなんてとてもできへんかったから。
途中から小さな子供のように二人ともぼろぼろと泣きながら、肌を触り、唇を合わせて、抱き合って、何度も一緒に果てた。
生まれてから今まで、これほどのしあわせとかなしみを同時に味わったことはなかった。
そしてきっとこれからもないんやと思う。
ある種、夢に近いような時間で。
ずっと、このまま朝が来なければいいと、心の底から強く、そう思った。
カーテンの隙間からうっすらと白い光が差し込んだ頃には、
彼女も俺も疲れ果てて、頰に涙の跡を作ったまま隣同士、横たわっていた。手は、つないだまま。
手と触れ合う肩からやわらかな体温を感じながら、ゆっくりと彼女の方を見ると、彼女も俺の方をゆっくりと向いてもともと薄い化粧がほとんどくずれた、幼い顔で俺を見つめた。
面積がせまくて、小さくて、白い彼女の頰。
そこに残る涙の筋にそっと親指で触れる。
俺を見つめる彼女の目の中で、涙がまた膨らむ。
その涙が膨らんで、壊れると、音を立てずに彼女の頰を伝った。彼女の涙は、息を飲むほど綺麗やった。
俺はその涙を拭いてあげながら、体を少し起こして彼女の額に唇をくっつける。
ほんの小さくキスの音させて。
「大倉くん。」
天井を仰ぐ彼女の横顔を透けたカーテンから部屋に入り込む光がおぼろげに照らした。
「うん？」
「…私今、生まれて初めて、私が私で良かったって思ってる。」
静かに息を吸い込んでから、落ち着いた口調で彼女はそう言った。
俺は何も言われへんまま、彼女の横顔を見つめることしかできへん。
「でも。」
彼女の声が、細かに震える。
「でも、同時に私が私であることを後悔してる。」
今度はさっきより大きく、息を吸って吐く音が聞こえた。
「…すごく、後悔してる。」
彼女はもう、泣かなかった。
目を潤ませてはいたけれど、決して、涙を流さなかった。
「ごめんなさい。…ありがとう。」
はっきりと俺の目を見てそう言った彼女。
彼女はその朝、
俺を、きちんと、諦めた。
今まで彼女が諦めてきたものと同じように、俺は彼女にとって『過去』になった。
。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 266人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、とっても素敵な感想いただいてしまい、胸がいっぱいです…。おこがましいですが、読んでくださる方がすこしでも何か思ってくださるとすごくうれしい気持ちになります。こちらこそ、読んでくださり、もったいないほどの温かいコメントをありがとうございます…！ (2019年10月31日 16時) (
レス) id: e4c7cf5b6b (このIDを非表示/違反報告)
幸 - とても、引き込まれるお話でした。見ることができて、よかった。vocabularyも豊富で、表現が繊細で、読者を震わせることができる人だと思います。これから、全て作品見ます。ずっと、応援してます。ありがとう。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2018年9月12日 23時
