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とても空気のつめたい夜やった。
午後が外回りやったから、俺は彼女と会社の近くのデパートの前で待ち合わせた。
雪が降りそうな、低くて灰色の寒々しい空。
時間より2分ほど遅れて到着した待ち合わせ場所には彼女が既にいた。
ひっそりと、寒そうに肩をすくめて、行き交う人々をぼんやりと眺めていた。
それだけで俺はもう、泣きたくなった。
このまま、逃げて帰ってしまいたいとさえ思った。
「ごめん、待たせてもうた。」
俺に気づいた彼女は、朝のように、また穏やかな表情をしてみせた。
こんなに寒いのに、やっぱりむき出しの白い首が寒そうで痛々しい。
「そんなに待ってないよ。外回りお疲れ様。」
「山田さんも。」
手を取りたい。
そう思った。
手を取って、歩き出したい。
「腹、減ってる？」
彼女と俺は並んで歩き出した。間に一定の距離を置いて。
「うん。そこそこ。」
「ほな、どっか入ろ。何か食べたいもんある？」
「大倉くんは？」
「んー…なんか、あったかいもん。」
「いいね。そうしよう。」
「スープカレー、しゃぶしゃぶ、もつ鍋。どれがいい？」
「…しゃぶしゃぶ？」
「了解。」
まるで普通の会話に笑いたくもなって、よく解らない感情のままとても普通に夕食を食べに行った。
最後になるんやって何度も心の中で唱えてみたけどそれはただ唱えるだけで何にもならなかった。
なんてことはない、それはただの報告のための夕食にすぎなくて。
「……ここんとこずっと、いろいろ考えて、あの時よりも気持ちの整理はついてん。」
ひとしきり食べた後、箸を置いて彼女をまっすぐ見た。
「…うん。」
彼女は同じように箸を置いて、小さく頷く。
「まだ……諦められたわけやないけど。けど、あんな風に子供みたいな態度とってごめん。」
ううん、と顔を歪めて首を横に降る彼女。
「いろいろ言うたけど、でも山田さんの人生は山田さんのもんやから、決めるのも、山田さんやと思う。」
自分でそう言いながら言葉にするとなんて安っぽいんやろうって。
その上、「幸せを願ってる」なんて加えたら発狂してしまいそうやったから、そんなことは言わなかったけど。
「やから……俺もちゃんと、どうにかする。」
上手く言葉にしようとすればするほど、どうにもならへんかった。
彼女はただ頷き、時間だけが過ぎていく。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、とっても素敵な感想いただいてしまい、胸がいっぱいです…。おこがましいですが、読んでくださる方がすこしでも何か思ってくださるとすごくうれしい気持ちになります。こちらこそ、読んでくださり、もったいないほどの温かいコメントをありがとうございます…！ (2019年10月31日 16時) (
レス) id: e4c7cf5b6b (このIDを非表示/違反報告)
幸 - とても、引き込まれるお話でした。見ることができて、よかった。vocabularyも豊富で、表現が繊細で、読者を震わせることができる人だと思います。これから、全て作品見ます。ずっと、応援してます。ありがとう。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2018年9月12日 23時
