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「…彼女が幸せそうなの見て、これで良かったんだって思った？」
彼女は俺から目をそらし空を仰ぐ。
「まあ、そやな…うん。」
「大倉くんはやっぱり、いい人だね。いい人というか、お人好し。優しすぎるんだよなぁ。」
笑みを浮かべながらもそれはとても他人行儀に聞こえた。
「そうかな。」
「そうだよ。」
――だから、
と彼女は重々しく続ける。
「その優しさに漬け込みたくなる。…その優しさが居心地良くて、どっぷり浸かっていたくなるんだよ。」
彼女の視線はどこを見ているかも分からないようで、声はどこか危なくて寂しそうで泣きそうで。
漬け込んだってええのに。
浸かってたってええのに。
山田さんなら、なんだっていい。
俺はふらりと彼女の向かいに立つ。
そして、彼女の腕を細い掴み引き上げると抱きとめるようにして、彼女の体を自分の胸に引き寄せた。
彼女の体は少し冷たくて、そして壊してしまいそうなほど華奢やった。
今まで感じてきた彼女との距離を埋めるみたいに、離れないようにきつく抱きしめて鼓動の音を感じる。
俺の音なのか彼女の音なのかは分からへん。
彼女は何も言わなかった。
俺の腕の中でどんな顔をしてるかも分からなくて、小さな肩が呼吸で動くのだけを感じる。
溢れた感情全てを腕の力に預ける。
しばらく彼女を抱擁した後ゆっくりと体を離した。
手は彼女の両肩に置いたまま、少しかがんで首をひねって、
唇を合わせた。
それは、今までしたどんなキスより丁寧で、慎重やった。
彼女のひんやりとした唇から離れ、ゆっくり体制を元に戻す。
瞬きもせず、俺を見上げる彼女。
抱きしめても、キスをしても、やっぱり彼女が何を考えているのか俺には分からなかった。
どんな感情を抱いているのかも分からない、ある種放心したような顔で俺を見上げる彼女の目を真っ直ぐ見る。
「山田さん、俺、」
――山田さんが、好きや。
唇はそう動こうとしていたのに。
ふいに強制的に動きを止められた俺の唇。
少し乾いたつめたい何かで蓋をされていた。
それは、彼女の掌やった。
彼女の両手が俺の口を塞いでいる。
残酷なほど、優しく。力なく。
「それ以上、言わないで。」
ほとんど蚊の鳴くような声で手を伸ばして俺の口を塞ぎながら彼女は言った。
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蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、初めまして。有難いお言葉に胸が熱くなりました…後先考えずにがむしゃらに書いてしまった荒すぎる出来の中でふたりの互いに想い合う気持ちは一番慎重に書いたのでそう言っていただけてとても嬉しいです！こちらこそ読んでくださりありがとうございました^^ (2018年11月10日 23時) (
レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - はじめまして。あまりにも続きが気になって一気に読ませて頂きました。描写はもちろん、ヒロインと大倉くんのお互いを想う切実さが綺麗で、思わず息が詰まりました。とっても素敵なお話をありがとうございました。 (2018年11月9日 15時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2018年8月7日 18時
