「金木犀の香り」 ページ40
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大学の時取ってた講義で教授が言っていた。
――幸せは他人の犠牲の上に成り立っている。
その講義自体、出席さえしてれば取れるから取ってただけであってほとんど寝てたし内容もほとんど覚えてへんけど、
その時は、何故か突っ伏していた顔を起こして教授の話に耳を傾けた。
ほんまにそうなんやろうか？
そうやとしたら、今あいつがあの男と付き合って未だに続いてて幸せそうなんは俺の犠牲の上？
過去の呪縛に囚われていた俺はそんな恐ろしく自分勝手で滑稽なことを考えていた記憶がある。
「忠義。」
顔をあげると、あいつがいた。
お色直しで柔らかい黄色のドレスに身を包んだあいつが、優しい眼差しで俺を見上げてた。
「今日はありがとう。来てくれて。」
ざわざわとした周りの音の中で際立つ凛とした声。
「ほんまに、おめでとう。」
俺は持っていたワイングラスを置くとそう言った。少しだけ言葉が喉で詰まりそうになる。
感情がいくらか高ぶっていた。
「忠義、泣いてたでしょ。」
「…泣いてへん。」
「嘘。私が親に手紙読んでた時、泣いてたの見たんだから。」
「泣いてへんて。」
言い張る俺をくすりと笑うから、俺も自然と顔がほころぶ。
――幸せは他人の犠牲の上に成り立っている。
その考え方が正しいとしても、間違っているとしても、そんなことはもう、どうでも良かった。
白い繊細なドレスを身に纏ったあいつは、あの人の隣で、本当に幸せそうやったから。
誓いのキスは少しむず痒くて、だけどどこまでも清くて。
あいつが読んだ両親への手紙は完璧で、完璧すぎてついもらい泣きをしてしまったくらいで。
なにより、花嫁姿は今まで見たどのあいつよりも一番綺麗やった。
もう大丈夫だと思った。
――大倉くんなら大丈夫だよ。
彼女の声が聞こえた。
「…こんなとこで言うんはちゃうかもしれへんけど。」
「ん？」
「あの頃、お前のこと好きやった。」
少しだけ緊張して心拍数が速くなるのを感じながら目の前におる幼馴染の顔を見ると少しも驚いた表情を見せずふふっと笑うと、
「うん、知ってた。」
無邪気な顔で俺を見上げる。
「え……？」
「知ってたけど、知らないふりしてた。」
あっけらかんと笑いながらごめんね、と言った。
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蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、初めまして。有難いお言葉に胸が熱くなりました…後先考えずにがむしゃらに書いてしまった荒すぎる出来の中でふたりの互いに想い合う気持ちは一番慎重に書いたのでそう言っていただけてとても嬉しいです！こちらこそ読んでくださりありがとうございました^^ (2018年11月10日 23時) (
レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - はじめまして。あまりにも続きが気になって一気に読ませて頂きました。描写はもちろん、ヒロインと大倉くんのお互いを想う切実さが綺麗で、思わず息が詰まりました。とっても素敵なお話をありがとうございました。 (2018年11月9日 15時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2018年8月7日 18時
