。 ページ35
。
「山田さんは？地元と東京、どっちが好きなん？」
ビールジョッキを置いて、枝豆を取るとリズムよくふた粒ほど口の中に押し出した。
「東京…かな。」
彼女も枝豆の盛られた皿に手を伸ばす。
その答えに俺は少しだけ嬉しくなった。
これも自意識過剰やとは思うけど、自分のいる東京のほうを彼女が好んでることは嬉しい。少なくとも、地元の方が好きだと言い切られるよりは。
「長野は…住んでたところは、ありえないくらい田舎だって言ったでしょ？」
「ああ…うん。」
「別に自然が嫌いなわけじゃないんだけど、すごく小さな村だから車がないとどこにも行けないし、山にかこまれてて、森がたくさんあって。住人も少なくてどこに行っても誰かに見張られてるような気がして、ずっと息苦しかったんだよね。」
彼女は枝豆を口に入れると空になった皮を見つめた。
「だから東京出てきた時、なんかほっとした。」
「まあ、東京もせわしないし人が多いし落ち着かないし好きとは言えないんだけど。」
そして俺の方を上目がちに見るとまた逸らして、枝豆の皮をから入れ用の皿に置く。
「…でも、最近は、少しだけマシになったかも。」
やっぱり微妙な距離があった。
彼女の言葉からはどことなく俺の彼女への好意を牽制されているようで。
彼女の言う『マシになった』要因に少しでも俺の存在があればええなんてそんなおこがましいことを思うと同時に、
まだまだ、見えへん、見せてもらえへん何かがたくさんある気がして、もどかしくてたまらへん。
「私の話なんか面白くないし。違う話しようよ。」
困ったような顔で俺を見てくるから俺は首を横に振った。
「そんなことあらへんて。山田さん普段あんまり自分のこと話さへんやん。」
「…まあ、そんなに喋ったこともなかった人に自分の過去の恋愛打ち明けたりはしないかな。」
いたずらっ子のように歯を見せてにやりと笑う彼女に俺は苦笑いを浮かべる他ない。
「ちょっと。それは掘り返さんとってえや。」
「その後はどう？後悔と上手く付き合ってる？」
「そやな。まあ、ぼちぼち。」
貴方のおかげで。とは言われへんけど。
「大倉くんなら大丈夫だよ。」
「そーかな。」
「おかゆ作るの上手いから。」
「関係あらへんし。」
俺と彼女は小さく笑ってまた、泡の少なくなったビールを飲んだ。
。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 312人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「関ジャニ∞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、初めまして。有難いお言葉に胸が熱くなりました…後先考えずにがむしゃらに書いてしまった荒すぎる出来の中でふたりの互いに想い合う気持ちは一番慎重に書いたのでそう言っていただけてとても嬉しいです！こちらこそ読んでくださりありがとうございました^^ (2018年11月10日 23時) (
レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - はじめまして。あまりにも続きが気になって一気に読ませて頂きました。描写はもちろん、ヒロインと大倉くんのお互いを想う切実さが綺麗で、思わず息が詰まりました。とっても素敵なお話をありがとうございました。 (2018年11月9日 15時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2018年8月7日 18時
