「夏の病、溺れる恋」 ページ25
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「また何かあったら連絡して」と彼女の家を去ってから四日、彼女は会社を欠勤していた。
欠勤、というか営業は足がないとできへんしあの状態じゃ出勤も大変だろうからと在宅勤務を許されたらしいんやけど、
二日前に送った『調子どう?』という俺のLINEは返事もなければ既読もつかないまま。
やっぱり、生き急ぎすぎたんかな。とか、
鬱陶しい奴やと思われたんかな。とか、
そんなことを考えて迎えた五日目。
仕事終わりにスマホを見ると、彼女からLINEが入っていた。
それは俺の『調子どう?』に対する返信ではなくて。
ちょっと頼みたいことがあるんだけどいいかな?
もちろん。
素早く返信して画面をじっと見てると既読がついて、
買い物頼みたいんだけど、
バナナとプリンとチンで食べられるパックのご飯お願いしてもいい?
しばらく彼女からの吹き出しを凝視してから、
…バナナとプリンと、パックのご飯て。と眉間に皺を寄せる。
もしかして、風邪引いたん?
そもそも山田さんなら松葉杖ついてもちゃんと出社しそうやし、LINEに返信がなかったのは体調が悪かったから…?
いろんな想像をしてる間に既読はついたけど、返信がくる気配はない。
とりあえず、頼まれたもん買ってってあげな。
足早に地下鉄に降りて電車に乗り、彼女の最寄駅を目指す。
山田さんから俺を頼ってくれたことは嬉しいけど、逆手に取るとそれくらいしんどいんやないかと体調が心配になる。
駅で降りるとこの間のスーパーに寄って言われた通り、バナナとプリンとパックのご飯、あと念のためスポーツドリンクと熱さまシートといくつか食材を買った。
家に着く前に相変わらず既読がついたまま返信がこない俺の問いかけの下に『今買い終わったから家向かうわ』とだけ送って、
日が落ちて暗くなった道を歩き彼女の家にたどり着いた。
玄関チャイムのボタンを鳴らすと涼やかな音が中で響くのが聞こえて、
それからしばらくしてガチャ、と音を立てて開くドア。
「ごめん。仕事終わりに使っちゃって。」
ドアの隙間から顔を見せた山田さんはマスクをしてて、目の周りは落ち窪んでて、その上松葉杖で踏んだり蹴ったりな風貌で。
その上、
「コーヒーでも飲んでってって言いたいところなんだけど、こんな状態だから…移したら悪いし、お金これで足りる?」
千円札を俺に差し出してきた。
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蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、初めまして。有難いお言葉に胸が熱くなりました…後先考えずにがむしゃらに書いてしまった荒すぎる出来の中でふたりの互いに想い合う気持ちは一番慎重に書いたのでそう言っていただけてとても嬉しいです!こちらこそ読んでくださりありがとうございました^^ (2018年11月10日 23時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - はじめまして。あまりにも続きが気になって一気に読ませて頂きました。描写はもちろん、ヒロインと大倉くんのお互いを想う切実さが綺麗で、思わず息が詰まりました。とっても素敵なお話をありがとうございました。 (2018年11月9日 15時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年8月7日 18時