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その日珍しく俺はオフィスに残って、残業をしていた。
特に仕事がようさん積んでたわけでもないけどそうしたい気分やったから。
区切りのいいところまで終えると、大きくため息にも似た息を吐き、前髪を乱暴に搔き上げた。
そして、今日の昼を思い出す。
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「ヤスは盆休み尼崎帰るん？」
昼休み、昼飯を食べ終わった後テラスでヤスと一服するのが俺らの日課みたいなもんやった。
テラスは暑いけど、一応日陰にはなってるし、最近は世間も喫煙者に厳しいから冷房の効いてる喫煙所なんて社内にはない。
「そのつもり。」
ヤスは頷き、口から煙草の煙を吐き出した。
熱い空気の中に白い煙がむわりと広がり溶けるように消えていく。
「彼女とは？どっか行かへんの？」
俺もふー、と煙を吐き出し、横目でヤスを見た。
ヤスにはもう三年程付き合うてる彼女がおる。
前に一目だけ会うたことがあったけど、綺麗で優しそうな子やった。
「今年は尼に連れて帰ろうかなぁて。」
再び煙草を咥えたヤスはどこか落ち着きがなくて、
「…実はな、」
と俺を見ると照れ臭そうな笑みを浮かべた。
「結婚、しよう思うてんねん。」
とても潔いそのカミングアウトに、俺は思わず動きを止めヤスの顔をまじまじと見てしまう。
「え……ほんま？」
「プロポーズはまだなんやけど。今週末には。」
「…それは、めでたいな。」
よく考えなくたって、27で三年も付き合うてるんやから結婚しても全く不思議やないのにどこか少しだけ動揺しとる自分がいた。
俺はそれを誤魔化すように煙草を咥える。
「まあ、まだ返事もらったわけとちゃうからちゃんと決まったらまた報告するわ。」
そう言うヤスの表情は自信に満ち溢れていて幸せそうやった。
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ヤスにはあいつの結婚のことはおろか、俺がかつて幼馴染に恋をして不完全燃焼に終わりその過去に未だ囚われているということは言ってなかった。
というか、今まで俺は誰にもこの話をしてない。
あいつのことが好きやったということも、それに伴ういろんな葛藤や後悔も全部、俺自身しか知らへんことやった。
それはある種、誰にも言いたくないし言われへん自分だけの思い出にしたい側面もあって。
それが、最近変わってきた。
あいつの結婚から始まって、山田さんの一件や、ヤスの今日の話で、
俺はこのまま、こんなんでずっと停滞していてええんやろうか。
そうやって思うようになった。
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蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、初めまして。有難いお言葉に胸が熱くなりました…後先考えずにがむしゃらに書いてしまった荒すぎる出来の中でふたりの互いに想い合う気持ちは一番慎重に書いたのでそう言っていただけてとても嬉しいです！こちらこそ読んでくださりありがとうございました^^ (2018年11月10日 23時) (
レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - はじめまして。あまりにも続きが気になって一気に読ませて頂きました。描写はもちろん、ヒロインと大倉くんのお互いを想う切実さが綺麗で、思わず息が詰まりました。とっても素敵なお話をありがとうございました。 (2018年11月9日 15時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2018年8月7日 18時
