【三人称】日常【SS】 (ページ16)

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秋霖1(ぺ) ページ16

しとしとと降り続ける雨は止むことなく、街中を灰色に染めていく。
窓に滴る雨粒を見ながら今日のデートは中止かなと溢れる溜め息。
雨は止むと言った気象予報士に騙された気分だ。

遅く起きてきたぺーさんに今日どうする？と問いかけてみると、寝癖で大変なことになっている頭を掻きながら
『雨の散歩もいいんじゃない？たまには』
そう提案してくれた。
雨だといつも引きこもって一緒にゲームをしたり映画を見たりしていたけれど、やりたいゲームも見たい映画もそれそろネタ切れ。
ぺーさんの言う通り雨だからと引きこもらず、外に出てみるのも良いかもしれない。

お互い支度を終えて靴を履く。
ぺーさんはいつものスニーカー。私はあまり出番のなかったお気に入りの長靴。こんな時だからこそ履いていこう。
あ！彼が声をあげる。
『やっべ、俺会社に傘忘れて来たかも。昨日帰りは降ってなかったから…
傘これしかないや、いい？』
思いがけず相合い傘のデートになりそうで舞い上がりそうな気持ちを抑える。
付き合いたてとは言えないくらいの月日を共に過ごしてきたものの、未だにちょっとしたことで弾むこの気持ちは、以前と変わらずぺーさんに恋している証拠なのだと思う。
どちらが鍵を閉めるか、いつもお決まりの無言の攻防をして、いざ出発。

傘に降り注ぐ雨音が心地良い。
水溜まりにちゃぷんと足を着けば広がる波紋。長靴を履いてきて良かった。
子供の頃に戻ったような気持ちでうきうきしながら歩いていく。
時々ぺーさんにぶつかって体温を感じる。
体の左側がほんのり暖かい。
怒り肩の彼がちょこんと傘に収まっているのが面白くて、そして愛おしくて、ふふっと笑ってしまう。
そんな私を見ると、わざとふてくされた顔を作って『なに？』なんて言ってくる。
それすら可愛いと思ってしまう自分は惚気すぎかもしれない。

彼の服が色濃く変化していることに気がつく。私が濡れないように傘をさしている証拠だ。
ぺーさん濡れてるよ、と言ってみても
『いいの。気にすんな、俺は大丈夫だから』の一点張り。
Aが濡れないようにとは言わずとも、彼の気遣いが嬉しい。
掴みにくいけど伝わってくる優しさに、心も暖かくなるのを感じた。