三月五日 多幸茸５ ページ12
其の後、ひたすらドアを見てたら安吾が来て、太宰を呼んでくれたのだ。
最初安吾も勘違いしかけていたが、私の切羽詰まった様子を見て察してくれたらしい。
一言、弥生さんが其んなに甘えた様子なのは、珍しい、と云った。
あと、織田作さんが其んなに動揺するのも珍しい、とも云った。
そうだろうか、と首を傾げる。
取り敢えず安吾が来てくれた為、太宰が来るまでに私から弥生を引っぺがそうとした。
無理だった。
思いっきり床に大の字で寝転がりたい気分である。
太宰が来た後は、鮮やかなお手並みとしか云い様が無かった。
ドアを開いて瞬時に状況を理解したらしい太宰は、刺激しない様にかゆっくりと近づいて来た。
記憶は其のままの筈で太宰の事も知っている筈なのに、不振がっているのか弥生は私に更にしがみついて来た。
然し、太宰は其んな事では歩む足を止めようとしない。
其の後、完全に弥生の背後を取った太宰が化学班から貰ったと云う麻酔薬を弥生に注射した。
何故今持っていたのかは言及してはいけない。
くたりと弥生の体から力が抜ける。
存外重い。
支えていると、太宰が何処からか椅子を持ってきた。
安吾は何故か縄を持っていた。
何故持っていたのかは言及してはいけない。
椅子に座らせ、安吾と共に縛り上げる。
よっぽど麻酔が効いていたのか、弥生は一切反応しなかった。
そして、今に至る。
弥生が起きるのを待っている。
若し弥生が起きても、未だあの茸の効果が続いている様なら、もう一度眠らせ、抜けていたら、何故あんなものを食べたのか訊く為である。
何故あんなものを食べたのか、疑問でしかない。
弥生は、全く起きない。
忙しい身である太宰と安吾は、此んな事に付き合っていては厭だと感じるのも当たり前である。
二人が忙しい身であるとは理解しているが、帰りたいものは帰りたいのである。
けれど、私の頭の中にはもう一つ疑問があった。
麻酔で眠る前、弥生が私の顔を一瞬見上げた。
其の時に動いた唇の意味を。
私は、少しだけ、気になっていた。
力尽きた、御免。
補足(若しくは蛇足)
多分多幸茸は、其の人が幸せだと感じる事をさせる物なんじゃないかと。
太宰さんの場合は、其れがあの世に行く事。
其の所為で頭が逝ったんだろうけど……(合掌)。
弥生の場合は、甘える事。
弥生が云おうとした最後の一言は、ご想像にお任せします。
友人Ｍ・Ｉ、リクエスト有難うございました！何かあれば云って下さい。
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作者名：永魔堂 | 作成日時：2018年11月11日 19時
