十一章 芥川君と ページ12
其の儘ゆっくりと此方へ振り向く。
此方を向いた顔には、太宰と同じ表情があった。
「僕に何用か。」
げ、と云いたそうにしながら芥川君は云った。
私は芥川君に歩み寄りながら答えた。
「いや?居たから呼んだだけさ。」
トン、と芥川君の肩に手を置く。
芥川君は、無表情にそうか、云った。
軽く談笑(私が一方的に話し、芥川君が相槌を打つと云うのが談笑と云うのか判らないが)、
一緒に昇降機に乗り込み、各々の階の数字を押した。
昇降機が上がっていくのを景色で感じながら、私は芥川君に尋ねた。
「太宰とは、うまくいっているかい?」
「はい。」
即答だった。
クスクスと笑いながら私はもう一度尋ねる。
「本当に?」
「はい。」
芥川君は、無表情に答えた。
気付いていないのだろうか。
答える度に動く唇に、赤い縦線が幾つも入っているのに、私が気付いている事に。
「キツイ様なら、私から太宰に云っておくけど……。」
「大丈夫です。」
此れも即答。
面白いなァ……。
また一人、クスクスと笑っていると、芥川君が私の方を見た。
「貴女は、太宰さんと何の様な関係で?」
「前も訊かなかったかい?」
私が逆に訊き返すと、芥川君は頷いた。
其の顔は、何かに疑問を覚えた年相応の少年の顔だった。
「彼の時は誤魔化されたので。」
「善く覚えているねェ。」
私はうふふと笑った後、真顔になる。
「本当に、聞きたいかい?」
「え……?」
日常で私が使う事の無い低い声に、芥川君が困惑の色を浮かべた。
ズイ、と一歩芥川君の方へ踏み込む。
芥川君が一歩退く。
暫く見つめ合った後、私はパッと笑顔になった。
「なんてね!」
明るく私は云った。
困惑の瞳から困惑の色が薄れていき、恨みがましく私を睨んだ。
私は其れに気付かない振りをする。
「只の友人関係さ。立場を越えて多少強い物云いが出来る、ね。」
其の時、丁度善いタイミングで昇降機が私が選んだ階で止まった。
ドアが開く。
私は外に出た。
「じゃあね、芥川君。」
「では。」
其の時の芥川君は、既に無表情に戻っていた。
ドアが閉まる。
再び昇降機は上へと上がっていった。
却説、と……。
私は表情を顔から消す。
此処からが本番だ。
廊下を歩きながら考える。
広津さんは如何だろう?
否、私には無理だ。
他の奴なら、否……。
至極真面目に考える。
だが、私は着いてしまった。
私の、事務室に……!
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味の素 - 天才ですね、分かります (2018年11月22日 16時) (レス) id: dc2caa7110 (このIDを非表示/違反報告)
永魔堂(プロフ) - 黒崎メアさん» リクエスト有難うございます!少し書くのに時間がかかってしまうかもしれませんが、リクエスト、確かに承りました! (2018年11月7日 15時) (レス) id: cddf6c3e9e (このIDを非表示/違反報告)
黒崎メア(プロフ) - 恋愛系でも良いのなら、何時もと違うドSな太宰さんに壁ドンされ、顔を赤くする弥生が見たいです。 (2018年11月4日 18時) (レス) id: 970964fd31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:永魔堂 | 作成日時:2018年10月29日 18時