木舌さんと気紛れ ページ32
玄関が開く度、緊張して。顔を出すのは佐疫くんや平腹で。結局仕事に行くまでに彼は帰っては来なかった。というか、帰ってきてくれるんだろうか。というか、なんでこんなに不安なんだろう。
溜息をひとつ。わたしは家を出た。
家に帰り着いたの日付が変わって少し経ってからだった。玄関を開ける。いつもお出迎えしてくれる彼はいない。静かにドアを閉めて家に入る。部屋のドアを開けてすぐのカウンターキッチンにふと大きな人影が見えた。
顔を見なくても分かる、それは木舌さんだった。多分お酒か何か探しているんだろう。
「帰りましたよ」
「わ、驚いた。おかえり」
あんな事があったのに。彼はわたしにへらりと笑ってみせた。ぎゅうと心臓が鷲掴みにされて、苦しくて目を逸らした。
「お酒、ですか」
「はは、分かる？」
「買ってきてます、あの、安いチューハイですが」
手に持っていたコンビニの袋をぶっきらぼうに差し出すと、彼は嬉しそうな声をあげてそれを受け取った。中にはおつまみも入っている。にこにこしている木舌さんをキッチンに置き去りにしてリビングへ、行こうとしたけど阻止された。大きな手が腕を掴んで、それだけなのに動けない。
「あの、」
「一緒に飲もうよ、今日は一人じゃ飲めない気分」
彼が笑む。
頭に血が上るのが分かった。何ですか気分って、じゃあ今日わたしから離れたのもそういう気分だったと？気紛れにわたしに触れて、わたしから離れていって、わたしの心を掻き乱して、のんびり笑って。
「冗談じゃない、」
「え？」
「わたし、お風呂入るので、お一人でどうぞ」
「じゃあ待ってるから、」
「ひとりでどうぞ！今日は、そんな気分じゃないです」
声を荒げて木舌さんに噛みつく。彼は少し驚いたような顔をして、掴んでいたわたしの腕をそっと放した。
「ごめん、でも、気が変わったら言って」
この期に及んで彼はまだ柔らかく笑う。眉を下げて困った風に。
見ていられなくて逃げ込むように浴室に向かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 300人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まびの。(プロフ) - 鈴菜さん» 鈴菜さん、コメントありがとうございます！こんな化石のような小説に……わたしの願望(欲望)を詰め込んだ木舌さんになっておりまして恐縮ですが、可愛いと思っていただけて幸いです( ^o^)続編…途中までですが、よろしくお願いします…… (2020年8月24日 20時) (
レス) id: 744b07ad85 (このIDを非表示/違反報告)
鈴菜 - 木舌さんがいちいち可愛いんですよ…！(嬉)もう、最後の方は涙が…。続編も読ませて頂きます！ (2020年8月23日 17時) (レス) id: 887197f4b6 (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 最後で泣きそうになってしまいました・・・・でもとっても面白かったです！ (2016年7月6日 20時) (レス) id: bf8b5df6a4 (このIDを非表示/違反報告)
みっきーω・`(プロフ) - ひょええ…冬だからサムイな…サイトですか…お手数ですが、URLをはっていただいてもよろしいでしょうか？ (2015年11月29日 3時) (レス) id: 332ae38f5d (このIDを非表示/違反報告)
まびの。(プロフ) - みっきーω・`さん» これは･･･みっきーさんが風邪をひく前に更新しないと･･･（笑）今はツクールでの執筆はやめてサイトの方で更新しているので、終わるとしたらそっちでかなあと思ってます。頑張りますね！ (2015年11月29日 3時) (レス) id: 5abcfed697 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まびの。 | 作成日時：2015年2月28日 14時
