極彩色の世界のなかで (ページ10)

今日:7 hit、昨日:16 hit、合計:18,275 hit

・ページ10

・

「……ああもう、なんで私じゃだめなわけ、意味がわかんない」
「あのひとはあ、私と一緒にいたほうが、幸せなわけ！なんでわかんないかなあ、ほんと、」

居酒屋でひとり、ビールを呷る。店員も周りの客も私のことを面倒な客がいるな、とでも言うような目線で見てくるが、そんなことを気にしている余裕は今の私にはなかった。

髙比良さんの一番にはなれない。なぜなら彼にとっての一番はもうすでにいて、その彼女は他界してしまっているから。それでも追いかけたくなってしまう。彼のことを放っておけないと、思ってしまうのだ。職場の後輩が言っていた、「叶わない恋」がどんなものなのか、今なら痛いほどわかる気がした。

テーブルに突っ伏してお酒の勢いのままに嘆いていると、頭上から待ち焦がれた声が降ってきた。

「おねえさん、俺より悪酔いしてんじゃん」

・

「……たかひら、さん、」
「そうだよ、あなたの好きな髙比良ですよ」
「……なんでわかるの、私があなたのこと好きって、」
「わかるでしょ、そりゃ。あんなこと言われたら」

けらけらと笑う髙比良さんに、ああやっぱりずるいなあ、と思う。絶対に叶うことはないのだ、この恋は。そうわかっていながらも、このひとのことを放っておけない。このひとの視界に映っていたいと、願ってしまう。

・