極彩色の世界のなかで (ページ7)

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人生だったひと、もうかえらないひとページ7

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「はい、どうぞ」
「……どうも」

夜の公園、コンビニで買った水のペットボトルを手渡すと、彼はすこしずつ、言葉を紡ぎはじめた。

「……好きだったひとがいて」
「うん」
「憧れだったんですよ。世間一般から見たらふつうのひとでも、俺にとっては人生そのものみたいなひとで。俺が今芸人でいられるのも、……あ、実は俺、芸人で、」
「うん、知ってます」
「あ、そうなの？……で、そう、芸人でいられてるのも、そのひとからの言葉があったからで」
「直樹、絶対芸人辞めないでねって、私直樹がM-1で優勝してる姿見ないと死ねないからって」
「そのときは大袈裟だなあと思ったけど、まさかほんとに事故で亡くなるとは思ってなくて」
「……」
「人生、だったんだよなあ。俺にとっては、ずっと」

その、「好きだった、人生そのものだったひと」がどんなひとだったのか、私にはわからない。けれど彼女が彼にとってすごく大切な存在だったということは、痛いほどわかる。

「だからこんなになるまで酒飲んで。ほんと、情けないですよね」
「情けなくなんか、」
「……あー、やば、また泣きそうだわ、さっきまで散々泣いてたのに」

その涙をほんとうの意味で拭ってあげられるのはその彼女しかいないのだろう。私ではだめなのだ。頭ではわかっていても、手は動いてしまっていた。

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