極彩色の世界のなかで (ページ3)

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タクシーを呼んで中にふたりで入ると男は、ほんと、すみません、と心底申し訳なさそうに謝った。

「全然。……こういうことよくあるんですか」
「あー、まあ、はい……」
「……なにかあったんですか、やけ酒しないとやってられないこととか、」
「まあ……それなりに」
「そうなんですね、……」
「あの、俺のことわかります？」
「え？」
「あ、わかんないか。ならいいんですけど」

なんだろう、まさか昔の知り合い？それとも有名人？必死に記憶を辿ってみるけどこの顔とは誰も一致しない。ぐるぐる考えているうちに目的地である彼の家に着いてしまった。

「あ、おれ、払います」
「いや、いいですいいです。私が払うんで。また会ったらそのときは、なんか奢ってください」
「……すみません、ほんと」

タクシーから出て家に帰っていく後ろ姿を見ながら、不思議なひとだな、と思った。私の知り合いによくやけ酒しているひとなんていたっけなあ。いないよなあ。やっぱり有名人なんだろうか。

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