極彩色の世界のなかで (ページ15)

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「いやでも、俺はあいつの存在を忘れられないし、いまさらひとを好きになるなんて、」
「や、おまえももう29だよ？そろそろ次の恋にすすんだっていい頃だろ」
「……それは、」

ケムリの言うことはもっともだった。たしかに俺はもう29だ。彼女を事故で亡くしてから、何度季節を越えたのだろう。
ビールをひとくち飲む。いつもは味がしないそれも、あの、俺のことをよく見つけてくれる子に出会ってからは、すこし美味しく感じるようになってきていた。

「正直なところ、どうなの。嫌いではないんだろ？その子のこと」
「……嫌いでは、ないです。俺が倒れているところを毎回嫌な顔ひとつせず助けてくれるし、俺のこと、好きだって言ってくれて、嬉しくないわけはないし」
「じゃあ、すこし向き合ってみたら。その子にも、自分にも」

ずっとともにやってきた相方のあたたかみを帯びた言葉にすこし、肩の荷が下りた気がした。あの子の気持ちに応えたいと思う気持ちは嘘じゃない。もうすこし、あの子の思いに向き合ってみるのもありなのかもしれない。そんなことをぼんやり考えていると、バン、とテーブルを叩く音が店内に響く。

「……でも！私はやっぱり、あのひとの一番になりたいんだよ！」

突如聞こえてきた大声に振り向くと、見慣れた顔があった。

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