第五話 ページ6
2月26日、雄英高校入試当日。
雄英の倍率は例年300を超えるが、今年もまた例外ではない。それでもなお雄英入学を目指しその壁を乗り越えんと生徒たちがやってくる。そんなヒーローの卵たちをAは見つめていた。
｢懐かしいな｣
その言葉の真意は誰にもつかめないまま消えていった。そして彼女は一呼吸置き、試験の様子を見るため教員らが集まるモニター室へ足を運ぶのであった。
プレゼントマイクの声ではじまった模擬市街地演習。情報力、機動力、判断力、戦闘力と4つの基礎能力を見ると、今年は例年に比べなかなか良いように感じられる。
｢あれは…｣
彼女は手元の資料を探す。｢緑谷出久｣、彼はまだ0Pだったはずだ。“個性”を使う様子も伺えず逃げてばかりである。巨大ロボも発動し、残り時間は5分をきっている。誰しもが彼の事を｢不合格だ｣と思っていた。そんな中、Aは彼に熱い視線を送る一人の人物に気がつく。
｢オールマイト…｣
それに気づいた瞬間、室内に歓声が響いた。モニターに目を移すと先程の少年、緑谷出久が巨大ロボを粉砕したのである。突如として使用された彼の異様な“個性”、そしてオールマイトの視線にAはある仮説がたつ。そしてAはすぐさまオールマイトの後ろに回り、こう言った。
｢良い後継者が見つかったようでなによりです｣
その瞬間オールマイトは後ろを向き、それを言ったのがAだということに気がつく。オールマイトの瞳孔は開き、明らかに動揺し顔からは血の気が引いている。二人の間に緊張がはしる。騒がしい室内では誰も彼らには気づいていない。
｢君は…｣
｢終、了〜！！！！｣
オールマイトが声を出す瞬間、試験終了の合図と重なりAにその声は届かなかった。Aは軽く微笑んだあと、何も言わずに去っていく。オールマイトはその背をただ唖然と見つめるばかりで、今起きたことに理解が追いついていなかった。なぜAは、｢後継者｣について述べたのだろうか。｢後継者｣と言った時点でOFAを知っているというのは確実であり、オールマイトは彼女を危険視し、彼女はいったい何者であり、敵なのか味方なのかどうかを考えた。どうか、頼むから味方であってくれと願いながら早急に緑谷と話し合わなければ思うのであった。彼はまだ、何も知らない。
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作者名：霞莎 | 作成日時：2021年1月14日 22時
