推しが路地裏から飛び出してきた。[ 終 ]

傷ついて、傷つけて、傷つけられて。 ページ36

.





入り交じった感情たちを表すならば、




どろどろ、だろうか。
多分この恋は、普通なんかじゃない。




よくある映画や漫画、ドラマでは、


こんなにも傷ついて、





傷つけて、
傷つけられてることなんてない。

誰かを好きになれば、




その誰かは傷ついて。




手に入らなくて、傷つければ、
当たり前のように傷ついて。

それでも、結ばれたのならば、




その傷もなかったことになるのかな。


揺れるような髪を見つめて、
酷く潤んだ瞳を見つめてしまう。

前々から、わかっていたじゃないか。




ナタリーさんが冴くんに好意を寄せていたことなんて。
誰よりも、わかっていたし、

お似合いでもあるし。




冴｢ナターシャ。｣


ナタリー｢さ、え。｣





元々、私なんかよりも優れている彼女だし。



サッカーだって本気の彼女だから、
尚更に、

二人の関係性を壊した、よりも、




勝手に入ってしまったのは私なんじゃないか。

思わず、一歩後ろへと逃げてしまう。
揺れ動くような色を見つめたとて、






その瞳に、私は映ることは無いのでしょうか。




｢私、帰る。｣



冴｢は？｣

愛空｢送っていこうか？｣





｢大丈夫です。
ナタリーさん、今度二人で話しませんか。
ちゃんとした、ことを。｣


私はスペイン語なんて分からない。



けどでも、私の真剣な表情は、
彼女には伝わったらしい。





こくり、と頷いていたから。

それに、にんまりと笑って見せた。





傷ついた、沢山。
傷つけられた、沢山。

けどその分、沢山傷つけたから。






冴｢待てって、｣


｢冴くん。｣





冴｢っ、なんだよ。｣


｢これ、返す。｣






差し出したのは、あの日投げ捨てられたキーホルダーで。
それを見つめられては、

彼の手に持たせた。





それから、走るようにと逃げ出した。






駅に走って、電車に乗りこんで、
ズルズルと壁によりかかりながら、


ガラス越しの私を見つめる。






傷ついてるから逃げたんじゃない。
傷つけてしまったから逃げたんじゃない。


傷つけられても、






それでもちゃんと、




向き合いたいと思ったからだ。
私は、まだ子供だし、大人にもなれやしない。

それでも、ちゃんと、





ナタリーさんにも向き合いたいと思ったから。






｢ナタリーさんの気持ちも、わかるから。｣



好きな人が、よく分からないところで、
好意寄せられてるの見て、

嫌じゃない人はなかなかにいないもの。

これは恋愛漫画ではありません。→←正解が分からない。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す