傘を差し出す花の名前は。 ページ28
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世界が違うから。
住む世界も、見る世界も、
生きる世界も何もかもが、冴くんとは違う。
冴くんは特別だ。
世界で生きていく人だ。
それはナタリーさんもそう。
けど、それに比べた私は、
日本という箱にとじこもり、
何もせずに生きているだけの、凡人だ。
特別性も感じられない、量産されただけの、モブだ。
それを、知ってしまったから。
冴「なんだよそれ、」
いつも、めんどそうにしている彼の声に、
明らかなる怒りが混じる。
何をそんなに、怒っているの。
そう問いかけたくても、声は出ない。
怖いとかじゃなくて、
多分もうダメなんだと思って。
冴「ならもういいわ、」
静寂を切り裂いた音はそれだった。
諦観を見せつけられたように思えて、
財布に付けられていたキーホルダーを、
目の前で取り外し、
かしゃん、と音を立てて、私の足元に転がる。
それを見つめるしか無かった。
その言葉の後、冴くんは道をもどる。
ここで、行かないでと泣いた叫んだのなら、
少しは彼の隣に立てたのかもしれない。
それは、タラレバに過ぎないし、
きっとどう足掻いても、叶うことでは無い。
ゆらりと揺れる瞳は、何を思っていたのだろうか。
足元に転がるキーホルダーを取るためにしゃがみこむと、
それと同時に心が傾いたのか、
ぽろぽろと涙がまた溢れてきた。
ここまで泣いてしまうぐらい、愛しているのに。
被さるような影に見上げたのならば、
ゆるりとした優しい手つきで、
親指の腹で涙を拭われる。
「あ“、ぃくさっ、」
愛空「あーーぁ、泣いちゃって。
そんなに好きなら、手放さきゃ良かったのに。」
「ちがうんです、」
愛空「世界が?」
「世界も、なにもかも。」
頬を伝う感情の塊は、
どういった想いなのだろうか。
混じり合わないふたつの色が私を見つめるから。
どうしたら正解なのか、分かるわけもなかった。
くいっ、と弱い力でも傾く私の体は、
すっぽりと愛空さんの腕の中に収まる。
じんわりとした温もりを感じながら、
頭を撫でる手つきが優しくて。
それがどうにも、冴くんならと思ってしまうんだ。
「あ〜〜〜〜〜………………、
私、こんなにも好きだったんだなぁ、」
そう呟きながら、
彼の服をぎゅっと握ったまま、
泣くことしか出来ずにいた。
Q . あなたにとって彼女とは。→←「冴くんとは、世界が違うんだよ!」
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夏蜜柑 - 冴ちゃん最推しなのでもう、最高でした!! (2023年2月1日 8時) (レス) @page48 id: 5a9946419b (このIDを非表示/違反報告)
甘いものと眼鏡(プロフ) - 完結おめでとうございます!毎朝この小説の更新を楽しみにしてました!!これからもずっと応援してます!!! (2023年1月29日 7時) (レス) @page50 id: 10f6e45005 (このIDを非表示/違反報告)
夜空(プロフ) - 完結おめでとうございます👏🏻🎉✨最初から最後までとても素晴らしい作品でした。ことりさんの書く作品は、どれも読んでいてワクワクするようなものばかりです。これからも、他の作品での活躍を楽しみにしています🌷🤍 (2023年1月28日 8時) (レス) @page50 id: fb39a53612 (このIDを非表示/違反報告)
お饅頭(プロフ) - 完結おめでとうございます!そしてお疲れ様でした!!完結してしまったのが寂しくも嬉しくも感じます、完結までが完結してしまうとあっという間に感じました。改めて素晴らしい作品を完結まで続けてくださりありがとうございました!そしてお疲れ様でした! (2023年1月28日 1時) (レス) @page50 id: c1e1b186de (このIDを非表示/違反報告)
tomato(プロフ) - さいっこうに面白かったです!冴オチの夢小説はこれが初めてだったんですが、面白かったので他のも見てみようと思います!文章の書き方とか、文字の選びが凄い好きなので、他の作品もみようと思います!お疲れ様でした! (2023年1月27日 23時) (レス) @page50 id: 9d5bc87a7c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ことり | 作成日時:2023年1月1日 2時