29. 夏油side ページ29
夏油side
『すぐる』
暗くなった部屋、10年ぶりに右腕に感じる重さと温もり、私と同じシャンプーの香り。
そして、待ち侘びた声。
そっと頭を撫でる。
「どうしたんだい」
こちらに擦り寄ってきたAが、遠慮がちに口を開いた。
『…あさになったらいなくなってたりしない?』
「大丈夫だよ」
『うん…』
それでもAは眠れないみたいで、しばらくもぞもぞと身体を動かしていた。
「ごめんね。不安にさせてしまって」
『ううん』
あの日私に置いていかれたという事実が、彼女の中に大きな傷を残しているようだった。
あの日傷つけたことは謝っても謝りきれないけれど、今、こうしてこの手の中にその温もりがある。
うつらうつらしてきた頃、名前を呼ばれたような気がして意識が覚醒した。
「ん…A、何か言ったかい?」
『ううん なんでもない
起こしてごめん』
ぴゃっと顔を隠してしまったAの頭をあいた左手でそっと撫でる。
すっかり枕になっている右腕を少し引いて、Aに向き直った。
「どうしたんだい」
ゆっくりと顔を上げ、こぼれ落ちてしまいそうな大きな瞳でしばらくこちらを見つめるAが、ふっと目を落とす。
『…たい』
「うん?」
『……』
「困ったな。もう一度言ってくれるかい?」
次に聞こえてきた言葉は予想で。
『……ちゅーしたい』
「え」
恐る恐る、という感じでこちらの様子を伺うA。
ちょっと、これは
『すぐるに、ちゅーしてほしい、なって…』
思わず左手で顔を覆う。
耳がかっと熱くなるのが分かった。
「ごめん、ちょっと、見ないで……」
10年ぶりの彼女に、平静を保っていられそうになかった。
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せつな - chiroru...さん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。他作に比べ勢いで書いてしまっている節があり、読みづらいところがあるかもしれませんが、これからも読んでいただけると嬉しいです! (10月2日 1時) (レス) id: 617609c1ea (このIDを非表示/違反報告)
chiroru...(プロフ) - 続きめっちゃ気になります!切ない系なのがまた良いです!更新頑張って下さい、応援してます! (9月29日 17時) (レス) @page22 id: eb897bce76 (このIDを非表示/違反報告)
せつな - 掛け持ち失礼します…!どちらも頑張って更新しますのでよろしくお願いします。 (9月28日 22時) (レス) id: 617609c1ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:せつな | 作成日時:2023年9月28日 21時