13. Myside ページ13
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傑のことを忘れたことはない。
ただ、悟に抱かれ、快楽に身を任せている時だけは、ほんの少し、ほんの少しだけ、傑を頭の片隅に追いやることができた。
罪悪感がないのかと言われれば返事に困るが、100を越す一般人を呪殺し、私を置いて行ったのだから、傑との関係は自然消滅したといって良いだろう。
年頃の女が同期とそういう関係になっている、ただそれだけの話。
……それでも自分は傑の彼女だという感覚が消えないのは、はっきりとした言葉を突きつけられなかったからだろうか。
「A」
名前を呼ばれて横を向けていた顔を起こすと、天井の照明を隠すように自分を見下ろす、透き通った肌と蒼い眼が目に入る。
…あぁ、この眼が私にあったなら、私がもっと強かったなら、何か少しだけでも、変わっていたのだろうか。
昼間のおちゃらけた様子からは想像がつかないような、真剣な悟の顔が迫ってくる。
思わず、顔を背けて名前を呼ばれる前の位置に戻した。
一瞬の静止の後、何事もなかったかのように、そのまま降りてきた白い綿毛が私の首元にうずまった。
「A」
…体は重ねる。でもキスはしない。そんな暗黙の了解がある、ように思う。
悟なりの「傑の彼女」への気遣いなのか、「傑の彼女」としての自負がそうさせるのか、今となっては分からない。
それでも、そういった習慣が2人の間には染み付いていた。
そして勿論、「傑」の話をすることもない。
夏油傑という男が私たちの生活に占めていた割合は予想を遥かに越えて大きく、初めこそ意識的に言葉を選ぶ必要があった。
それでも、1つ冬を越し、もう1つの冬を終えて、いつしか私たちが2人で過ごす時間は、私たちが傑と過ごした時間を追い抜いていった。
たった2年と少し。それだけの関係。80年ある人生の中では取るに足らない、短い時間。
時折訪れる激しいやるせなさや喪失感を埋めるようにお互いを利用する、そんな10年だった。
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せつな - chiroru...さん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。他作に比べ勢いで書いてしまっている節があり、読みづらいところがあるかもしれませんが、これからも読んでいただけると嬉しいです! (10月2日 1時) (レス) id: 617609c1ea (このIDを非表示/違反報告)
chiroru...(プロフ) - 続きめっちゃ気になります!切ない系なのがまた良いです!更新頑張って下さい、応援してます! (9月29日 17時) (レス) @page22 id: eb897bce76 (このIDを非表示/違反報告)
せつな - 掛け持ち失礼します…!どちらも頑張って更新しますのでよろしくお願いします。 (9月28日 22時) (レス) id: 617609c1ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:せつな | 作成日時:2023年9月28日 21時