6話 ページ6
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行かないで、なんて我儘すぎる我儘を想いに君のシャツの裾を引っ張る。
此方を振り返る君の顔は、驚きの含む表情であった。それが何を意図してるのかは分からないが。
僅か数秒の事がやけに長く、ゆっくりと感じたのは、此方へ伸びてくる君の手に気付いてから。
「やっぱり。A、顔赤いぞ。」
熱でもあるのか、といった理由で君のやや骨張った筋肉質の手の甲が前髪を避け当てられている。
視界には君一杯で今にも埋もれてしまいそうだったものだから、咄嗟に君から離れてしまった。
「いや。私は全然元気なんだけど、！」
雨に濡れたと言っても、風によって斜めに振られていた雨が足に当たったくらい。
寧ろ、君の濡れ具合は最早お風呂上がりだ。
君の方が心配である。
という心配心とは心の底から思っている筈なのに、私は君を引き留めてまで一緒に居たいなんて甘えて。
「･･････ごめ、なんでもない。向こうで待ってるね。」
と同時、君に背を向ける。
惨めさを感じる反面、私事のようなくだらない恋心で君を困らせて申し訳なさで一杯だった。
･･････なんて、黄昏れる気分で、ふと窓へ目を向けてみれば。
先程まで土砂降りだった、雨は微かに止んできている。
確かに、五月蝿かった雨音も少し落ち着いて。
山陰からは、数分前まで雲に掛かっていた太陽が覗いて空を朱色に染まらせていた。
「あ、止んだ。」
ぽろりと零れた独り言を拾った君は ”傘買う前で良かったよ” なんて笑い混じりの声を上げる。
取り敢えず、の安堵を感じ、
衝動、クーラーと濡れた雨によって冷えた身体を温めたいと、二人して外へ出る。
薫ったのは夏の匂い。
先程までの雨の匂いとやら面影は消えてしまっている。
「なんて言うか、こういうの新鮮だな。」
空を仰いだ君は、眩しいと呟きながら額に手を翳した。
赤く染まる太陽は私達を照らしている様だ。
揺らぐ陽炎。
夕暮れ時の木漏れ日が出始め、さらりと揺れる。
途端、蝉が一斉に喚き出す。
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作者名：充電アダプタ | 作成日時：2021年6月1日 19時
