7話 ページ7
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ー二口side
心地が良い。
花の香り、今は無き桜の匂いだ。
満開に咲いていた桜が少し恋しいが、今は君という存在を独り占め。
中庭に二人、誰にも邪魔されない。
もう、邪魔されたくない。
何処からか香る、桜の匂いは俺の心臓をより一層煩くした。
いっその事、君が好きだと伝えてしまおうか。
大会で緊張した時にいつもやっている、深呼吸をひとつ、ふたつ。
完全なぶっつけ本番だ。
当たって砕けると心に決め、君に視線を向ける。
「・・・・・・好き、なんだよ。」
俯いている君の頭上へ向けて放つ。
─────ああ、言ってしまった。
あれだけ深呼吸をしたくせに、効いてなんかいない。
辺りは風そよぐ声と、俺の煩い心臓の音だけが聞こえる。
零れた声はあまりにも乏しかったが、確かに君に聞こえた筈だ。
だが、
君が顔を上げた刹那、俺には予想外の言葉を放ったのだ。
「今日初めて食べたけど、私も結構好き。」
「・・・・・・は、」
君の声は一瞬にして風に乗って消えてしまったが、俺の心の中で何度も繰り返される。
柔らかい笑みを浮かべた君は、”帰りに買おうかな” なんてご機嫌の様だ。
そんな君とは裏腹に、今の俺は一体どんな顔をしているのだろう。
「え・・・・・・あ、いや。」
阿呆みたいな声が次々に漏れる。
”グミも好きだけど、俺は君の方が好きだ”
・・・・・・なんて俺には弁解出来ず。
「・・・・・・そうじゃねぇ、って。」
声がいつもより低い事に自分で驚いた。
きっと今の俺、相当苛立っている。
右脳は必死に焦る反面、左脳は容赦なくポロポロと言葉を生み出していく。
「俺はアンタが好きだ、って言ってんの。」
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作者名:充電アダプタ | 作成日時:2021年5月9日 12時