6話 ページ6
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ー二口side
ここまで来れば、後は無く。
引き返す事なんて不可能である。
それにしたって、抵抗なんて無くすんなりついてくる君の無防備さに又もや腹が立つ。
君に聞こえないくらいの小さな溜息をひとつ。
それは、煩く響く心臓を落ち着かせる為でもあった。
「あのさ、」
地面へ声を落とすなり、振り返る。
向かい合った俺達は自然と繋がれていた手を離した。
俯かせる顔から君の表情を覗くなり、丸みを帯びた頬は桜色に染まっている。
俺以外に見せる顔だったらいいのに。
なんて思う俺は相当のマセガキである。
行き場の無くなった手を下ろそうと手を下げた衝動、ポケットへ手が当たる。
”何か” が入っている合図だ。
「･･････あ。」
阿呆みたいに声が漏れた。
ポケットの中から覗かせたのは、見慣れたグミのパッケージ。
･･････すっかり忘れていた。
袋の中を覗くなり、思い出すようにハッとした。
中身は一粒だけ。
「ちょっと、来て。」
”来て” と言う程でもないが、やや開いていた君との距離を詰める。
すれば、風と共に柔らかい匂いが鼻先を擽る。
桜の匂い─────？
「手、出して。」
自分の無愛想さに驚いたが今はどうでもいい。
君が手を出す前、下ろされていた君の手を持ち上げる。
「ん、あげる。」
君の小さな掌へ転がったグミ。
─────ハートの形だ。
レアな事もあり、敢えて残していたコイツは君に食べられる結末になるとは知らないだろう。
俺だって、思ってもいなかった。
「これ、私が食べちゃっていいの？」
一体君は、何処までお人好しなのだろう。
あげる、と言っているのだから遠慮なんて要らないのに。
ただ、少し。
心残りくらいあるけれど。
─────今は違う。
君の事が好きだから、だ。
どうせなら、俺の好意を俺の好物に込めて伝わってしまえば良いのに。
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作者名：充電アダプタ | 作成日時：2021年5月9日 12時
