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「辻村君なら、今頃書類仕事に追われているだろう」



「…貴方の監視は"大変"なんて言葉では済まなそうですからね(ボソッ」



「A君、何か言ったか?」

「いえ何も」




凍るような鋭い視線に射貫かれた。

私はすぅ―ッと視線を逸らし、すぐさま否定の言葉を口にする。
心中お察しします、辻村さん。…本当にお疲れ様です。


さて、気を取り直してまして。


作業机に向かい、鑑定用の白い手袋をはめれば準備完了。

ケースを開けた。




「…これはこれは。ジュモー、ですかねぇ」

中に入っていたのは、『ビスク・ドール』。

19世紀頃に、西洋の貴族のご令嬢たちの間で流行した人形だ。
現在は『アンティークドール』と呼ばれ、価値の高いものは数十万で取引される。
代表例は『ジュモー』という会社が製造したビスク・ドールだ。


私は鑑定のついでに、修復の必要な個所が無いかを調べる。

こんな風に歴史的価値のある絵画や彫刻を修復する、保存修復師の仕事も請け負う。
明確な資格は無い為、以前は美術館に勤め、修復師としての修行を積んだものだ。



「やはり『ジュモー』で間違いありませんね。目立った損傷もありませんし、修復の必要もないでしょう」

ルーペ越しに人形を隅々と見回しながら、結果を告げる。


「…そうか。やはり本物だったか」

「……お疑いになられていたのに、なぜ購入なさったのです?」


人形を慎重にケースへ戻してから、綾辻先生に視線を向ける。

先生は片手で煙管(キセル)を回しながら、ソファの肘掛けに頬杖をついていた。
宙を見上げていた先生の冷たい視線が私の方へ向く。


「理由は主に二つ。一つは店主の人柄だな。騙されやすそうな顔をしているが、かの羽柴秀吉のように人たらしで、説得…というより言いくるめるのが上手かった。決してのせられた訳ではないが、その大した商売根性を見込んでな」



「遠回しにバカにしているような気もしますが…。はい、お返しします」


カウンターから出て、ソファに居座る先生の横にある小さな机へケースを置いた。
先生は礼を言いながら煙管(キセル)を懐へしまう。



*→←君の堕とし方【綾辻行人】



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紅月ミレー - リクありがとうございました(*^□^*) さっそく、読みました羅生門可愛いですよね(〃ω〃) モフモフしていそうですもんね、芥川様がちょっぴり可哀想でした(´;ω;`) (2020年12月15日 18時) (携帯から) (レス) id: a496965e6a (このIDを非表示/違反報告)
紅月ミレー - ハルさん» はい、分かりました(*^□^*) 楽しみに待ってます(v^ー°) (2020年12月13日 9時) (携帯から) (レス) id: a496965e6a (このIDを非表示/違反報告)
ハル - コメントありがとうございます!無理矢理終わらせた感が否めないですが…。僕くんはあと少しで書き終わりますので、もうしばらくお待ちくださいm(__)m (2020年12月13日 0時) (レス) id: dca913437b (このIDを非表示/違反報告)
紅月ミレー - リクの続きありがとうございました(*^□^*) 中也様と仲直りして良かったですね(o^−^o) そして、やっぱり最後は爆破イタズラで大成功でしたね(^皿^) (2020年12月9日 18時) (携帯から) (レス) id: a496965e6a (このIDを非表示/違反報告)
紅月ミレー - 太宰治様と一緒に仕返し作戦、一体どうなるか楽しみです(v^ー°) もし、中也様にバレたら…見られたら((((;゜Д゜))) 物凄くお仕置きが待ってますね(o^−^o) (2020年12月7日 17時) (携帯から) (レス) id: a496965e6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ハル | 作成日時:2020年10月26日 23時

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