三十路の恋はうまくいかない

葛藤 ページ33

ぼんやりと夕ご飯の食器洗いをしてると
後ろから抱きしめられる



「Aさん、なんか元気ない？」



『ん、そんなことないよ、
　今日は治療院の方が忙しかったから
　ちょっと疲れちゃっただけ。』



「…Aさんって
　嘘ついたり誤魔化したりする時、
　俺の目見ないって知ってた？」



『えっ！？』



「ふ やっとこっち見てくれたー」



敵わないなと観念すると
彼の顔がふっと優しい表情に変わる



「ねぇ、もしかして週刊誌みた？」



『…うん』



「やっぱり。
　分かってると思うけど元カノだからね
　もう会ってないから

　今俺が好きなのはAさんだけだよ？」



『…うん、分かってる』



彼が苦しいほど強く抱きしめてくる



「じゃあなんでそんな顔してるのよー

　俺の愛足りてない？
　どうすれば安心してくれる？」



優しい彼の言葉に
ついドロドロした自分の本音を口にしてしまう




『井口くんに問題があるわけじゃないの
　私が自分に自信がないだけ…

　子持ちだし
　三十路だし
　写真の彼女みたいに美人でもないし
　スタイルも産後くずれちゃったし

　こんなんで、井口くんの彼女には相応しくないんじゃないかなって…
　勝手に自己嫌悪になってたの』




「…バカだなぁ

　年の差も子供のことだって
　初めから分かってたことじゃん

　それを含めた上でAさんが好きなんだよ
　そんなことどうでも良くなるくらい
　あなたに夢中なんだよ？」






『…井口くん、

　でもね、どうしよう…好きなの、すごく…』




「うん、知ってる
　Aさんの瞳見てれば分かるよ。

　俺のことが好きで好きで仕方ない〜！って
　瞳してんだもん

　年上のくせに可愛くてたまんない」




『…今日、泊まってって欲しいって
　言ったら困る？』




「困るわけない。
　Aさんが安心して眠れるまで
　ずっと抱きしめててあげる

　あ、それとも疲れきって眠るくらい
　抱きまくろーか？」




『……後者で。』




「えっ！！！！！
　今日のAさんどうしちゃったの…


　…撤回はナシよ、覚悟してね。」

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