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今宵の月 ページ7

それに… 少し期待していた。あの天狗の言った、“今夜案内したい”という言葉に。

なので、さっさと寝てしまおうと思った。幸い、疲れていたらしく早く眠りにつけた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ふと、頬をなでる夜風に気がつき目が覚めた。窓は閉めたのではなかったのか、と不思議に思いそちらを見た。

すると、月明かりを背景にした、あの麗しの天狗がそこにいた。本当に来てくれたのか。自然と、手が口元に動いた。

「こんばんは、お嬢さん」

「…っ、ほんとに来てくれたんだ…」

私が声を絞り出すように言うと、天狗は微笑んだ。そっと私の手をとり、口をつける。

「ええ、勿論です。

私の名は… 天狗王クラマ。お嬢さん、あなたの名は?」

「あ、えと… 千尋Aです」

「そうですか、A。良い名ですね

では行きたいのですが、その格好では何かと不自由でしょう。…着替えられては?」

「あっ、そ、そうですね…」

今の私は家から持ってきた寝間着を着ている。しかも柄が少し子どもっぽい。なんだか恥ずかしくなってきて、自然と顔が赤らむ。

そんな私の様子に、天狗はくすりと笑い、そして私に背を向けた。気を遣っているのだろうが、制服を手に取りお手洗いに向かう。さすがにあの場では着替えられない。

制服のしわを伸ばし、髪を整えた。相変わらず前髪は少しはねてるけど、こんなものだろう。

部屋に戻ると、天狗王クラマは窓のさんにゆったりと腰かけていた。少し伏し目で、手に持っている八ツ手のうちわをあおいでいる。

それを見て、呆然と突っ立っている私に気がつくと、笑いかけてくれた。うん、本当に美しいと思う。

彼は、この美しさを保つために、いったいどれほど努力しているのだろうか。そう考えると、少し気持ちが沈んだ。私は、そんな努力をしたことがあっただろうか。

すぐ他人と比較するのは、私の悪いところ。親にいつも言われてきた。でも、比較するのはどうしてもやめられなかった。

「A、準備は良いですか?」

声をかけられ、はっとした。寝てる同室の子達を踏まないように気を付けながら、窓に向かった。

天狗王クラマが手をさしのべてきたので、そっと握り返した。すると、体をぐっと引かれた後、ふわっと体が宙に浮くような感覚に襲われる。

彼は私を姫抱きで抱えたのだ。そのまま窓のさんに足をかけ、ふわっと宙に飛び出した。窓を閉めることも忘れずに。

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作者名:紅ゆずりは | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年9月5日 20時

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