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五十年以上を越えて ページ40
目を開けると、そこは消毒液の匂いがする病院ではなかった。
回りをを見渡すと、そこは暖かな白い空間だった。不思議に思い、立ち上がろうと地面に手をつくと、異変に気がつく。
──私の手が、しわがれてない。
若い女性の手。おそらく、20代くらいの私の手だ。服装も、白衣にワイシャツ、ベストにスカートという、普段医師として働くときの格好だ。
頭に付いていた髪飾りを外し、うまく反射させ自分の顔を見てみると、本当に20代の頃の私の姿だった。
「何で、私は……？ もしかして」
──死んだのだろうか。
もちろん、現世に未練はない。やりたいことは果たせたからだ。でも、何故こんなところにいるのだろうか……
訳が分からず、回りを見渡していると、背後に気配を感じた。
誰だ、と思ったが、正体はすぐに分かった。
「お久しぶりです。──ああ、もっと美しくなりましたね
A」
……ああ、この声は。
この声の主は、
私が、数十年、待ち続けた──
「……迎えに来ましたよ」
声につられるように、私はゆっくり振り向く。そこに立つ男は、黒くとがった帽子に、赤い衣。
それに、──鼻の高い天狗の面。
間違いなく、彼だった。
「……っ、クラマ！」
柄じゃない。でも、私は彼に駆け寄り、腕を彼の首に回し、抱きしめた。彼も、私を抱き留めた。
──彼に会うことのできなかった、五十一年を取り戻すように。
クラマは、その大きな手で私の頭を撫でた。その温もりと、彼からする香の匂いに包まれて、今、──とても幸せだ。
そして、そっと耳元で囁かれた。
「A、改めて、私と──」
「……うん」
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