期待していた ページ37
「クラマ…… 私」
彼に何か言おうと、振り向く。
──だが、突然視界が真っ暗になった。
「え？ ……何？」
彼の大きな手が、私の目元を覆っているのだ。何をするのだろう。まさか、記憶を消すなんてことは──無いだろうか。
妖怪なら、そういうことも出来るかもしれない。私の体から、冷や汗が吹き出す。もう、忘れるなんて、嫌だ。
「ねぇクラマ、何を──」
だが、違った。
きっと、──今度こそ、だった。
彼が私の視界を隠すわずかな時間。
私の唇に、何かが触れた。
「──！」
何かが触れた瞬間、私は反射的に目を閉じた。
どちらにせよ、彼の手でなにも見えなかったけど。
だが、すぐに瞼の裏は明るくなった。──クラマの手はもう無い。
おそるおそる瞼を開くと、広がっているのはキョウトの景色。
ああ、彼はもう、……天狗の森に帰ったのだろう。
不思議と目頭が熱い。ああ、これは涙だ。私の頬を伝って流れている。だけど不思議とおかしくて、愛しかった。
「アハハハッ」
──私は思わず笑った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あのあと、ものすごく大変だった。
部屋でクラマがくれた
どうしたらいいか分からず慌てていたら、騒ぎを聞き付けた先生らが部屋に来てまた大騒ぎになったのだ。
先生たちはしばらく何かを言っていたが、私はぼんやりと髪飾りを握りしめているだけだったので、話は全く聞いていなかった。
その様子に呆れたらしくすぐに話は終わった。
部屋の子達は、どこにいたのか、その髪飾りは何なのかと珍しく話しかけ問い詰めてきたが、曖昧に答えた。
言っても信じてもらえないだろうし、知っているのは
せめて、と思い代わりに笑顔で返したら、やはり怪訝な顔を向けられた。
まあ、何でもいいけれど。
──やりたいことが分かったから。
それだけで、私の未来は明るくなったように思えた。
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