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崖っぷち ページ22

幸い、落ちた場所はそこそこ深かったので体を地面に打ち付けることはなかった。

だが、私は泳げない。

しかも、水を吸った制服はものすごく動きにくい。

確かこういう時は、何もしないと浮くんだったか。息が苦しく、暴れたくなるのをこらえ大の字になる。

そのうち、川面に出たらしかった。大きく息を吸い込み、必死にもがいて川原に行こうとするが、思うように動けない。

再び、川に打ち付けたときの痛みが全身に走り、また川に沈んでしまった。

もしかして、私、溺死するのだろうか。うう、苦しい、川の中、水中……

……確か私が水中に潜れなくなったのって、昔川で溺れたからだっけ。でも、あの時、誰かに―

川面を見上げると、サゴジョウがいる。あれ、私の死に際に来てくれたのかな。でも、私……

彼に手首を捕まれた。強く引き上げ、私の体を抱える。ものすごい速さで川面に上がり、水中から出た。

サゴジョウは私を抱えたまま川原に向かって泳ぎ、先に私を川原に出した。地面の感覚にこれほど安心したのは、いつぶりだろう。

「げほっ、げほ!!」

強く咳き込み、水を吐き出す。誰かが背中をさすってくれているらしかったが、とにかく咳をした。

一通り水を吐き出した所で、深呼吸をした。息が整ってから人物を見ると、背をさすってくれてたのはクラマだった。

「A…! 心配しましたよ。サゴジョウの使用人が、あなたがいないと言ってきたときは心臓が壊れそうでした」

「あ…… ごめん」

ものすごく心配そうに、私の顔を覗きこんできた。その大きな手で私の頬に触れ、深く息を吐いていた。

それだけ、私に気を使ってくれていたのだ。そんな彼の姿に胸がすこし、きゅんと痛んだ。

「テメェ、何で外出てんだ! こんなとこにいるなんてよぉ」

「そ、それは…… ミカヅキさんに、私に会いたい河童がいるって言われて」

言いながら崖を見たが、既にミカヅキはいなかった。どこに行ったのだろうか。

「あれ、あそこの崖にいたはずなのに」

「サゴジョウ様!」

背筋がぞっとした。背後から、あの凛とした声が聞こえた。ミカヅキだ。

ミカヅキはサゴジョウに近寄ると、ひざまずいて彼の手を取る。

「ああ、どうされたのです。突然、飛び込むなど――」

「……おい、テメェは何考えてんだ」

サゴジョウはミカヅキの手を払い、ぎろりと睨み付けた。もともと目付きが悪いから、一層恐ろしく見えた。

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作者名:紅ゆずりは | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年9月5日 20時

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