第65話 ページ16
「……でもね、辛かったことも事実だけど、お母さんに感謝してるってことも事実だよ。結局、私が勉強しながら学校でダンスの練習をし続けられたのはお母さんが毎日朝ご飯を作って、お弁当を作って、温かい夕ご飯で出迎えてくれて……それも働きながら……」
自分で言っていて、辛くなってきた。
お母さんが体調を崩しがちなことは知っていた。
しかし、それでも毎日ご飯を作ることは欠かさなかったし、それでいて尚親一人として仕事に励んでくれていた。
……もっと早くお互い素直に全部話していれば、もっと違う道があったのかな。
ガタリ、とお母さんが席を立って、泣いている私を抱きしめてくれた。
ああ、やっぱり随分小さくなったね、お母さん。
なんだか、懐かしくも優しい香りが鼻腔を満たした。
「ダジュンくんにね、明日の大会を一緒に行こうって誘われてたの。貴方のダンスを見て決めて欲しいって」
規則的に優しく背中を叩かれて、ぼんやりと幼少期を思い出す。
「それを言われるまで、ずっとダンスをやめさせることばかり考えていた。でも考えてみたら、確かにAのダンスを見たのはもう随分昔のことだったの。それからしばらくまた考えて、ビデオカメラを引っ張り出してきた。それでね、貴方が躍ってる姿を見たのよ。そしたらなんだかすごく……不思議だけど、涙と力が溢れてきたの。私、貴方が楽しそうにダンスをしている姿がこんなにも好きだったこと、忘れてたの。ホント馬鹿よね。……ごめんなさい」
私は無言でお母さんの肩に顔を埋める。
「お母さん……明日応援しに行ってもいいかしら？」
「っ、……ぅん。いいよ」
鼻を啜りながらつぶやいた返事は随分酷かった。
それでも、初めて二人で目を合わせて、随分久しぶりに笑いあうことが出来た。
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作者名：もちこ | 作成日時：2023年12月29日 22時
