流星群 (ページ27)

今日:38 hit、昨日:29 hit、合計:38,899 hit

- ページ27

-

気がつけば道路は混み始めていて、少しの渋滞に巻き込まれながらようやく着いたAの家の近くの駐車場に車を停めた。鈴音の家の合鍵を取り出して、マンションのエントランスに入る。前はしょっちゅう来ていたのに、ここに来るのは久しぶりな気がする。

「くそ、」

エレベーターのボタンを連打したって意味ないのはわかっていながら、全然降りてこないエレベーターに悪態をついて、階段を選んだ。2段飛ばしで上りながら、息が詰まりそうになる。自分の心臓の音がやけにうるさく感じて、いらつきながら必死にAにかける言葉を探すけれど、やっぱり何も浮かんでこない。ただ、心の中で馬鹿みたいにAの名前をずっと呼び続けていた。

ーAの部屋がある階に着くと、ドアノブに手をかけながら扉の前に立っているAの姿が見えた。俯いて、Aの顔を隠す髪の毛は雨に濡れて光ってる。あんなにずっと一緒にいたのに、弱々しい彼女の姿が見慣れなくて心臓がぎゅっと掴まれたような気持ちになった。その痛みに任せて、喉から「A、」と呼ぶ声が絞り出されるけれど大した音にならず消えていく。

もう一度彼女の名前を呼ぼう。呼ばなきゃ、

「A？」

ふいに聞こえた声に、踏み出した足を止める。「北斗、」と消えそうなAの声が聞こえて壁に隠れながら盗み見れば、Aに駆け寄る北斗の肩越しに涙を流すAの顔が見えた。また、心臓が掴まれた気がした。泣き崩れるAの体を北斗が支えるように抱きしめる姿に、その役目は俺じゃないんだと、ずるずると壁に体を預けながら座り込んだ。馬鹿な俺は、もうAの心を受け止めることもできない。

がちゃりと部屋の扉が開く音が聞こえて、二人分の足音を耳にしながら踵を返して階段を降りていく。確実に降りていっているのに、地面の感覚がなくてどうやって歩けているのかもわからなかった。気がつけばロビーに着いていて、ポストの前に立つ。ずっと握り締めていた手の平を開けば、合鍵の形の跡がついていた。

ー合鍵が、音を立ててポストの中に落ちていく。合鍵を落としたのは俺なのに、合鍵から手を離した瞬間、また掴みそうになる。するりと手の中からこぼれ落ちて、音を立てながらポストの底に落ちていったであろう合鍵はもう俺の手に戻ることはなくて、きっとAとの関係も元に戻ることはないんだろう。俺に泣く資格なんてないのに、ついにこぼれ落ちた涙を止めることはできなかった。