流星群 (ページ20)

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俯いていても、慎太郎がどんな言葉を言えばいいか迷っているのがわかった。そして、私が望んでいる言葉を彼がくれるわけがないことも。きっと、慎太郎が私に与えている幸せと不幸を天秤で測ったら不幸の方が重いんだろう。それでも、幸せの方を見てしまうのが恋なのだとしたら、人間ってバカだ。私は、バカだ。

「俺、・・・Aは、大事な幼馴染で、だから・・」
「うん、・・・歩いて帰るね。」
「Aっ」
「これ、合鍵。私の合鍵はポストにでも入れといて。・・ありがとね、・・ごめんね。」

キーケースから取り外した合鍵を受け取った慎太郎の顔は見ることができなかった。車のドアを閉めて、足早にその場を立ち去る。

さっきまで小雨だったのに、本降りになった雨が容赦なく私を濡らしていく。喉が苦しい。胸が苦しい。息の仕方を忘れたみたいに、息ができない。こんな風になりたくなかったから離れたのに。慎太郎への想いがいっそのこと跡形もなく無くなっちゃえばいいのに、ひび割れていくその想いはいまだ私の中にあって、破片がチクチクと私を痛めつける。ねぇ、北斗。私、自分の気持ち伝えたよ。伝えて、それから、どうやって幸せになったらいいの。

『A、合鍵ちょうだいよ！』
『えー、慎太郎居座りそうだからなあ。』
『いいじゃん！仕事終わって俺いたら幸せよ？それに、何かあった時いつでも駆けつけられんじゃん？』
『・・じゃあ慎太郎の合鍵もちょうだい。何かあった時いつでも駆けつけられんじゃん？』

マンションに着いて、部屋の鍵を開けながら私が初めて一人暮らしして、一緒に引っ越しを手伝ってくれた日を思い出した。記憶の中の私と慎太郎は幸せそうに笑ってる。もう戻れないかもしれない。ううん、戻れるわけない。戻らない道を、一方通行の道を選んだのは私だ。なのに、なのになんでこんな、

「A？」
「、ほく、と・・」

俯いていた顔を上げると片手にスーパーの袋を持った北斗が、目の前にいた。ー慎太郎が追いかけてきてくれたのかも、なんて一瞬でも期待してしまった自分が情けなくて惨めで堪えていた涙がとめどなく溢れた。しゃがみこんだ私の冷えた体を、自分の体が濡れてしまうことなんて気にせず抱きしめてくれる北斗の体温が温かくて、消えてしまいたかった。その体温に溶けてしまいたかった。それでも頭に浮かぶのはあなたの顔で、私があなたの前で泣けるような女だったら良かったのかななんて、どうしようもないことを考えた。