流星群 (ページ11)

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見られたくなかった。慎太郎だけには見られたくなかった。なんでもないようなふりをしてノートを拾い上げる。落書きされたページを引きちぎってから、慎太郎にまたノートを渡すけれど、慎太郎は受け取らずもう何も落ちていない床を見ていた。

「はい、ノート。いるんでしょ。」
「・・いつから？」
「・・何が？」
「今の。誰？」
「・・なんでもないから。」
「なんでもないじゃないだろ！」

慎太郎の怒鳴った声をその時初めて聞いた。私の手を握って、誰にやられてるのか聞く慎太郎の目を見ることができなかった。ーあの子が慎太郎を好きなこと、慎太郎もきっと知っている。名前を言えば慎太郎は自分を責めるだろう。そう考えると言えなかった。ただ首を横に振ることしかできなかった。

何も話さない私をしばらく見つめていた慎太郎は立ち上がると、椅子に座る私をそっと抱きしめた。後にも先にも、物心がついてから慎太郎が私を抱きしめたのはその時だけで、そして私が慎太郎の前で泣いたのもその時だけだ。

ー本当は辛かった。親友に裏切られて、友達に裏切られて、だけど慎太郎と離れることはできなくて。ああ、ずっとこういうのが続いていくんだと、辛かった。

「大丈夫だから。」

私の嗚咽が聞こえなくなるまで背中をさすり続けてくれた慎太郎は、そう言うと私に体温を残したまま、ノートを持たず部屋を出て行った。部屋中に私の心音が鳴り響いている気がして、誰かに聞かれてしまうんじゃないかと不安になったのを覚えている。

次の日から私へのイジメはパタリと無くなった。イジメていた子達が話しかけてくることはなかったけれど、物がなくなったりボロボロになっていることはなかった。後からその時のことを慎太郎に聞くと詳細は教えてくれなかったけれど「芸能界を使った」らしい。

ーあの時から「大丈夫」が私のお守りになったこと、あの「大丈夫」がどれだけ私の救いになったかってこと、慎太郎が知ることはないだろう。慎太郎に大丈夫だと言ってもらえれば大丈夫な気がしたし、あの時言われた大丈夫を思い出すだけで大丈夫だと思えた。そして、慎太郎が残した体温が私に「大切な幼馴染」以上の感情を与えてくれた。例えその感情がどれだけ重くなっても、痛みを伴っても、あの時の私は一生それを抱きしめていけるって思ってたの。