第五十二訓 ページ8
この時点でおそらく天海は蒲生に接触。マッドサイエンティスト気質の蒲生はこれに乗る。蒲生は病院Bへコネか何かを使って転勤する。
一方、Aを真選組に置いておいた方がいいと判断した近藤さん達は、Aの健康状態やバイタル値等を病院Bの望月医師にデータで送ることにした。
しかし人間じゃないものは分からないものだ。望月氏も困ったであろう。人間じゃない相手より、専門の人間相手の診断を優先した筈だ。その隙をついて蒲生はAのデータを盗み、天海と研究を続けた。
「そして、蒲生に任意同行を突きつけた時、天海が現れたと。そういう流れですねィ」
「逃げられないと思ったのか…うーん…」
唸る近藤さんに、Aは「違う」と即座に否定する。
「あの人は自分が追い詰められているとは思わない。常に誰かの先を進む人だから」
確かに。追い詰められていると思った人間はあんな余裕のほほ笑みを浮かべることなどできない。彼にはまだ何か隠していることがある。
すると、土方さんは眉間にシワを寄せながら呟いた。
「奴は俺に、何故出頭したか分かっているだろう、と言っていた」
「何でそう思ったんでしょう。まだ何も分かってねぇのに」
「逆に彼が捕まってからいろいろ喋ってくれたおかげで分かったことが多いのになぁ」
あの男が話すのは基本的にAに関することだけだ。他のことは一切分からない。
この事件の鍵はAだ。気付かれないようAを見る。あまりものを食べていないのか顔色が悪い。口数も減って、このままだと出会った頃に逆戻りだ。
「…また天海に話を聞きに行くしかないってのかィ」
「悔しいがそれしかない。あと蒲生にも話を聞きに行こう。奴は天海よりかは話の通じる男だろうし」
「マッドサイエンティストなのに?」
「…」
痛いところを突かれた近藤さんは困ったようにへらっと笑う。
Aはすっと立ち上がると部屋を出ていこうとするので呼び止める。Aは鋭いような目線をよこした。
「これ以上話しても分からないものは分からない。…今度あの人達に話を聞きに行く時、私も連れてって」
「奴と会って大丈夫かィ」
「…大丈夫」
俺ではなく自分に言い聞かせるように何度か呟くと、Aは部屋を出て行った。
ここ数日の彼女は、薄闇色に鈍く光る眼はどこか違うものを見つめていて、気安く話しかけることさえできない。俺達の日常は、あの男によって音を立てて崩れていく。そんな気がして、俺は小さく舌打ちした。
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作者名:ぽん酢ちゃん | 作成日時:2019年7月14日 19時