この世界の片隅に【土方十四郎】 (ページ50)

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五十ページ50

「肩は掠った程度だが腹んのは貫通してんだとよ。だから暫く入院だ」

『…最悪』

「…そら俺の不手際の所為だ。悪かった」

そう言って十四郎ちゃんは頭を下げるが私は違うと返した。

副長を守ることが私の、副長補佐の仕事なわけで。だから十四郎ちゃんが私に頭を下げるのはお門違い。『気にすんな馬鹿野郎』と気にかけないように言えば苛ついたように舌打ちが一つ。

「一言多いんだよクソガキ」

『煩いなぁ、なんだよ昨日は女みたいにしくしく泣いてたくせに』

「ハァ！？あれは、なんだ…その、煎餅の所為だ！！決して泣いてた訳じゃねェ！！なんだテメー切腹させられてェのか！！」

『ほんと二言目には切腹だね、大好きかよ切腹』

「んな訳あるかァァァァァ！！」

突然乱入してきた看護師さんに怒られた十四郎ちゃんはすみませんと謝る。ついでに煙草を吸わないように釘を刺されていた。

それがおかしくて吹き出せば殺すと言わんばかりに睨まれた。

＿＿おー、怖。

注意された筈なのに煙草を消すつもりはないらしく、フリをしただけでそれはまた口に咥えられた。

「…兎に角助かった、おめェが居なかったら俺ァもっと怪我が酷かっただろうし」

私の頭をくしゃりと撫でた。久しぶりの感覚になんだか恥ずかしくなって布団を口元まで被れば馬鹿にしたように鼻で笑われた。この顔を負かしてやりたくなって手を伸ばして彼の頭を撫でてやる。

『十四郎ちゃん』

「…ンだよ」

『お疲れ様』

この件で一番頑張ったのは彼だ。私が倒れた所為で後処理も彼一人で片付けてくれたのだろう。クマはきっとその時のものだ。未だ頭を撫でる私に怪訝な表情を向けてくるが次第にそれは柔らかさを増やす。

「Aもな」

私の肩に顔を埋めて小さく笑った。