四十二 ページ42
『てめー…ふざけ「A、黙ってろ」
…十四郎ちゃん』
あのような欠陥品と、蔵場は言う。欠陥品というのは必要なものが欠けていることを言うのであって彼女に対して使っていい言葉ではない。あの人には似合わない言葉だ。踏み出しそうになった足は十四郎ちゃんの一言で止まった。
いや、止めざる得なかった。
その声があまりにも怒りに満ちていてこれを無視すれば有無を言わさず私は斬られると思った。けどミツバちゃんに対して吐いた言葉への怒りは止まらず、それを抑えるように唇を噛めば口内に鉄の味が広がった。
火打ち石が擦れる音が微かに聞こえた。独特の匂いが雨に混じって鼻に届く。
「死ぬ前にいっときの幸せ味あわせてやりてェ、か」
いっときでも幸せを味合わせてやりたかったんですけどねィ
そう言って悲しそうに笑った総悟くんの顔がチラつく。
あんなに対峙してても思うことは二人、一緒なようで。二人の思いが重なってることに気づいた今、私は涙が出そうになった。
__アンタ達、ほんっと不器用すぎ。
「外道とは言わねェよ、俺も似たようなもんだ。酷ェこと腐る程やってきた。挙句、死にかけてる時にその旦那叩っ斬ろうってんだ。酷ェ話だ」
「同じ穴の狢というやつですかな。鬼の副長とはよく言ったものです、貴方とは気が合いそうだ」
『アンタと副長が一緒なわけないだろ』
「A…?」
自分と同じだという蔵場に虫酸が走った。思いっきり睨みつけてやれば怖い怖いなんて思ってもないことを口にするから、尚更腹が立った。
__同じ穴の狢だとしてもアンタと副長は違う。
左手の刀を蔵場目掛けてぶん投げる。だがそれは簡単に避けられてしまう、そんなの分かってた。分かっていたけれど投げずにはいられなかった。案の定蔵場はそれを避け、カランと刀が地に落ちた音がやけに響いた。
涙が出そうになるのを堪えるように唇を噛み締めた後、私は言ってやった。
『副長は…
十四郎ちゃんはミツバちゃんに幸せになってもらいたいだけなんだよ!!!』
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年8月31日 0時