四十 ページ40
『…なに立ち止まってんの、早く蔵場んとこ…行けコノヤロー』
「こんな状況でも口はよく動くなァ」
『煩いな…馬鹿、私はいいから早く、行けっての』
私を撃った野郎はすぐに見つかり、十四郎ちゃんが叩き斬った。けれどそれで私の腹の傷が治るわけもなく、赤が止めどなく溢れ出す。座り込む私を庇いながら剣を振るうその背中を見て、自分の情けなさを痛感する。だけどそんな気持ちに浸ってる訳にもいかず、彼の背中に迫る剣を弾きその剣の主に刀を貫通させた。
数はそれなりに減ってきた、けれど多すぎた。いつもみたいに隊一つを動かしてる訳じゃない。今日はどこの隊にも所属しない私と十四郎ちゃん、つまり副長と副長補佐だけなのだ。そりゃ目の前の敵も多く感じる。
思うことは同じなのか同時に溜息が漏れるがそれでも目の前の敵は切らなければならない。無我夢中で剣を振るう。けれど、その所為で彼の背中がガラ空きなことに気づくのが遅かった。
『十四郎ちゃん!!』
「ッッ!」
声をかけた時には遅く、彼は右の脛を後ろから貫かれた。ばたん、とその場に倒れた先の水溜りが赤く染まる。貫通している所為でその赤の量は多かった。
胸元のスカーフをひったくるように取れば、片端を噛んで一気に引きちぎる。血を止めるようにぐるぐると巻きつけ、そして縛った。応急処置にしちゃ雑だが今この状況で出来ることはそれだけしかなかった。彼を壁際に寄せて周りにいた浪士を一人残らず斬った。
足元に滲む赤は私のものか、十四郎ちゃんのものか、はたまたその辺に転がる浪士たちのものか。
それさえもわからないくらい一面は赤くなっていた。
『十四郎ちゃっ、いく…よ』
十四郎ちゃんの腕を私の肩に回して彼を立たせれば浪士達の間を縫ってゆっくりと物陰に歩いていく。すまん、なんて十四郎ちゃんは謝るけれど元々は私が背中を守れなかったことに責任がある。そんな彼に謝るのは私だといえば気にすんなと即座に返ってくるから少し笑ってしまった。
89人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:翡翠 | 作成日時:2018年8月31日 0時