三十五 ページ35
日中の仕事を終え、空の赤みが少しずつ無くなって真っ黒な雲に覆われた。ポツポツ、と隊服に水滴が落ちてくる。それが音を立てる雨に変わるのに時間はそうかからなかった。誰にも見つからないよう屯所を抜け出すというのは容易いものだった。言われた場所まで行くと二つの背中が見えた。
何やら話している様子だったので私はじっと二人を見つめた。
「酷です、あまりにも。ミツバさんや沖田隊長の気持ちも考えてやってください」
またアイツは余計なことを言うか。この期に及んで二人の気持ちを汲めという。そんなの私も十四郎ちゃんも痛いくらい分かっている。けれどその先のことを考えてほしいと思った。この現状を野放しにしておけばいつか私達や民間人。そして幕府の偉い連中がその武器に命を取られてもおかしくない。それはザキちゃんのいう通り。だからこそ今私達は奴らをしょっ引かないといけない。
でも、ザキちゃんの気持ちもわかるんだ。正直こんなこと私に任せて十四郎ちゃんは頑張っているミツバちゃんの側に行けと言ってやりたい。けど副長としての彼の答えなんて私は聞かなくてもわかっていた。だから止めなかったしついていくことを決めた。
「俺が薄情だとでも言うつもりか?…そうでもねェだろ。
テメェの嫁さんが死にかけてるってのにこんなところで商売に勤しんでる旦那もいるんってんだからよォ」
「土方さん…」
『十四郎ちゃん待ったー?』
頃合いを見て声をかければ遅いと言わんばかりに舌打ちをされる。それに気にするまでもなく私はザキちゃんを見てごめんと一言。ザキちゃんが目を見開く。
「おい山崎、お前この件誰にも他言しちゃいねェな?」
「あ、はい」
『隊の中で知ってるのは私ら三人だけだよね?』
「はい…」
「んじゃァ引き続きこの件は極秘扱いってことで頼むぜ。
…行くぞ、A」
『ザキちゃん、余計なこと喋んなよ』
背を向けて歩いて行ってしまった十四郎ちゃんを見つめ私はザキちゃんに釘を刺した。じゃ、よろしくと言葉を残して私は十四郎ちゃんを追った。
「副長、Aちゃんまさか…ふくちょー!Aちゃんー!」
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年8月31日 0時