この世界の片隅に【土方十四郎】 (ページ33)

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三十三ページ33

「おい」

『なんでしょ、旦那』

「大串くんはどこ行ったわけ」

『十四郎ちゃんなら仕事です、ていうか土方ですよ旦那』

なるべく平静を装い彼からの問いに答える。こんな状況下でも名前を間違えるなんて本当にこの人は名前を覚えてないのかと呆れていれば、二人には聞こえないように蔵場かと旦那は私に耳打ちする。ザキちゃんが口を滑らせたことを思い出す。あの馬鹿に頭が痛み溜息が無意識に漏れた。

『明日の晩しょっ引く予定です』

「あんたらも酷なことすんねェ」

『分かってます、そんなこと。でも…』

「んァ？でも、なんだよ」

旦那は不思議そうな顔をする。ふぅ、と一息つけば私は先程総悟くんに告げた言葉と同じ言葉を繋いだ。

『あの人には幸せはアイツんとこじゃねーんですよ』

そう言えば旦那は何も言わず、ただ私の頭を撫でた。いつもなら払う手だが今はどうしても払う気になれなくて、寧ろそのままでいてほしくて。ギュッと拳を握り締めれば袂が震える。旦那から少し離れ袂に手を入れそれを取り出す。誰かなんて確認をせずに出れば相手は十四郎ちゃんだった。

【予定通り明日、蔵場当馬をしょっ引く】

『…了解です。明日の夕刻、そちらに向かいます』

電話を切り旦那の隣に座る。大串くんか？と言われ素直に頷けばそうかと素っ気ない返事が返される。こんな状況なのに蔵場は現れない。さっき看護師さんが旦那さんと連絡が取れないだとか言ってたのが少し聞こえた。

＿＿あんな薄情者な犯罪者のところにミツバちゃんは嫁がせられない。