この世界の片隅に【土方十四郎】 (ページ30)

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三十ページ30

『聞いたんだね、蔵場のこと』

私の問いに素直に頷く。総悟くんはザキちゃんがミツバちゃんの周りを嗅ぎ回っているのに気付き十四郎ちゃんを問い詰めたらしい。そしてその口から語られた蔵場の真実。目を逸らしちゃいけないと分かっていたのだろう、けれどミツバちゃんのことを思うならという彼の気持ちが痛いくらいに伝わる。

「もう長くねェんでさァ、だからアイツに頭下げたんでィ。もう少しだけ待ってくれ、って」

『でも十四郎ちゃんは頷かなかったんでしょ？』

「…あのヤローが頷くなんて思っちゃいなかったが。だとしても…薄情な奴でィ」

悔しそうに唇を噛んだ。総悟くんの気持ちは痛いくらいにわかる。わかるが私が十四郎ちゃんの立場でもきっと頷けなかった。十四郎ちゃんだってきっと頷きたかったと思う、総悟くんと同じくらいに彼も葛藤しているのだから。宥めるように頭を撫でながら私は言葉を紡ぐ。

『今回ばかりは私、十四郎ちゃん側だわ』

「…っ」

『総悟くんから離れる事はないしどっち側とかない…でも、このまま見放しておいてミツバちゃん本当に蔵場と結婚なんて私は嫌だよ。＂犯罪者の嫁＂なんかにしたくない。』

総悟くんが息を飲んだのが分かった。その言葉を少しでも飲み込んでくれるように手を離せば彼の前に座って、覗き込むように顔を見る。自然と目が合うが、彼は今にも泣き出しそうだった。彼も分かっていたのだろう、だからこそ改めて言葉にされると痛いものだったらしい。