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宮本「嫁には行かねえのか…」
A「うん、行かない」
宮本「ったく…お前はな、いつまでも
こんなとこにいねえで、
さっさと所帯持って幸せに暮らせ
なんならいいやつ紹介するぞ」
A「いらないよ、、」
いつからかそんなやりとりばっかりなった
宮本は事あるごとに追い出そうとした
でも、Aが外に出ることはなかった
そのうち宮本は病気になった
寝たきりの生活になって
あっという間にこの世を去った
動かなくなった宮本を見てもAは涙が出なかった
その後は、中村の独壇場だった
Aの幸せだったその場所は、見る影なく崩れて
でもその時にはもう逃げ方なんて忘れていた
毎日、地べたを這いつくばるので精一杯だった
中村「お前もなかなか図太いね…
家族殺されたってのに1人でのんびり」
中村「かわいそうだね、お前もはやく
お天道様のところへ行ってやんな」
中村「泣いて詫びることだ」
そう言われるたびに本当にそうだなと思った
だから言い返せなかった
でも、絶対に泣かなかった
泣いたら負けだと、勝手に思ってた
依央利に負けるなと言ったのは
Aが負けたくなかったから
あんなやつのために涙を流したくなかったから
それは、宮本が死んで1年が経とうとしてた時だった
焦げ臭い匂いがどこからか漂ってきて
そこではすごく満足げな笑顔で
中村が炎を見つめていた
中村「かわいそうな、お前のために
過去をすっぱりと断ち切ってやったよ、感謝しな」
中村はAにそう言い残していった
燃えていたのは、Aの家族の形見だった
あの日逃げる前、拾い集めたそのガラクタは
A自身を支える大事な宝物だった
足元に転がったお兄ちゃんの筆箱が燃えて灰になる
どのくらいそれを見ていただろう
Aの中で何かが切れた
何かが音もなく崩れた
怒りでも虚しさでも寂しさでもない
そんな思いは
茫然と立ち尽くすAから止めどなく溢れ出た
気がつくと木刀だけ持ってひたすら歩いていた
そのままその足で江戸についていた
それでも涙は出なかった
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作者名:おぐら | 作成日時:2019年10月28日 4時